自民党の5大派閥が政治資金規正法違反で刑事告発された事件は、最大派閥・安倍派と第五派閥・二階派に東京地検特捜部の強制捜査が入る展開に発展した。
岸田文雄首相は強制捜査に先駆けて安倍派の閣僚4人を「安倍派所属」というだけで更迭したが、二階派も強制捜査を受けたことで二階派から入閣した小泉龍司法相と自見英子万博相の進退問題が浮上。とりわけ小泉法相は検察当局を所管することから、捜査への影響を避けるため更迭論が強まった。
小泉法相はこれをかわすため二階派離脱を表明。自見万博相は当初、慎重な姿勢を示していたが、世論の批判が高まり、やはり二階派を離脱する意向を固めたと報じられている。
安倍派の4閣僚の更迭に続いて、二階派の2閣僚の派閥離脱へ、裏金事件は政局を大きく動かし始めている。
だが、安倍派と二階派は強制捜査を受けたものの、他の3派閥(第二派閥・麻生派、第三派閥・茂木派、第四派閥・岸田派)も刑事告発を受けている点で違いはない。しかも岸田派は検察捜査の対象になっているとマスコミに報じられている。
主流3派(麻生、茂木、岸田)だけが強制捜査を免れていることが、来年の自民党総裁選に向けて、安倍派と二階派を狙い撃ちした「国策捜査」の印象を強めているのは間違いない。
派閥政治への不信感を払拭するためには、安倍派や二階派にとどまらず、すべての閣僚は派閥を離脱すべきだという世論が高まるのは必至だろう。検察捜査の対象となってている岸田派は、なおさらだ。
すでに岸田首相は信頼回復の先頭に立つとして岸田派を離脱し、派閥会長も退任した。
そこで次の焦点に浮上するのは、岸田派ナンバー2として、安倍派の松野博一氏の後任官房長官に就任した林芳正氏の「派閥離脱」である。
林官房長官は12月17日のNHK番組で、岸田派離脱について「どう改革していくのかの道筋に沿って、しっかり考えていきたい」と発言。マスコミ各社は派閥離脱に含みをみせたと報じた。
一方、小泉法相の二階派離脱については「政策集団(派閥)との関係はそれぞれ政治家としての考えがあり、岸田首相や私が指示するものではない」と述べ、内閣として統一行動を迫ることには否定的な考えを鮮明にした。
岸田首相が信頼回復のため先頭に立って派閥を離脱したのだから、内閣の要である林官房長官も続いて派閥離脱をするのは、内閣の姿勢を示すうえで当然と思える。さらにいえば、これを機に閣僚は全員、派閥を離脱する運用をはじめることは、信頼回復の起点ともいえるのではないか。
それでも林氏が「それぞれの判断」という姿勢を維持しているのは、自分自身が派閥離脱について踏ん切りがつかないからだろう。
岸田首相は退陣後、岸田派に戻って影響力を維持したい考えだ。これに対し、林氏は岸田首相から派閥を受け継いで「林派」に移行し、首相候補としての地歩を固めたい。岸田首相が派閥を離脱するなかで自らは派閥にとどまり、派閥継承に向けて地盤を固めたいという思惑がのぞく。
さらに林官房長官が派閥を離脱すれば、同じ岸田派の上川陽子外相らも離脱は免れない。さらに捜査対象からは漏れているとはいえ、刑事告発された麻生派や茂木派の閣僚が派閥にとどまることへの疑問も強まり、すべての閣僚は派閥を離脱すべきだという世論が高まることは必至だ。それは自民党執行部の派閥離脱論に発展する可能性も十分にある。
主流派を率いる麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長は、この展開は避けたい。麻生氏は来年の自民党総裁選で岸田政権から茂木政権への移行を目論んでいる。安倍派や二階派が大打撃を受けるなか、主流3派が結束して総裁選に勝利を収める戦略を描いており、裏金事件はあくまでも「安倍派と二階派の問題」として片付けたい意向だ。
閣僚や党幹部の派閥離脱ドミノに発展することを避けるには、林官房長官の派閥離脱を食い止めなければならない。林官房長官が岸田派離脱に躊躇しているのは、こうした主流3派の意向も働いているのだろう。
林官房長官が派閥離脱を表明して「派閥離脱ドミノ」の引き金を引くのか、それとも派閥にとどまって批判を一身に浴びるのか。
麻生氏の政敵である菅義偉前首相や石破茂元幹事長は、自分たちが無派閥であることの立場を強調し、「脱派閥」を前面に打ち出して全閣僚・党幹部の派閥離脱を迫るだろう。
来年の自民党総裁選をにらみながら、まずは林氏の動向が当面の焦点となる。