自民党担当記者の木曜日は忙しい。お昼に派閥の会合が一斉に開かれるからだ。
なぜ一斉に開かれるかというと、派閥の掛け持ちを防ぐためである。派閥の会合に出席して昼食をともにとることこそ、その派閥に所属している証しであり、その派閥に忠誠を誓う「踏み絵」なのだ。
かつて権勢を誇った最大派閥・田中派の名称も「木曜クラブ」だった。竹下登が受け継いで「経世会」と名付けたこの派閥では、団結を意味する「一致結束箱弁当」という言葉が盛んに使われていた。
ところが、岸田文雄首相が派閥解消を打ち出し、安倍派、岸田派、二階派、森山派は解散を決定。麻生派と茂木派は存続を決めたものの、離脱者が相次いで活動自粛ムードが漂っている。
今や自民党議員の7割は「無派閥」となり、木曜日の昼は手持ち無沙汰になったのだ。
ところが、その合間を縫って「新たな派閥」の旗揚げを目指し、木曜日の昼に仲間を呼び集める動きがじわりと広がっている。
2月8日には自民党の保守系議員が集う「保守団結の会」で顧問を務める高市早苗経済安保担当相が党本部にメンバーを集め、講演をした。解散した安倍派(清和会)を中心に約15人が参加し、今後は2週間に一度のペースで木曜日のお昼に集めることを決めたという。自民党内では、今年の総裁選出馬に意欲をみせる無派閥の高市氏が安倍チルドレンを結集させて「高市派」結成に動く第一歩と受け止められた。
これに対し、清和会創始者の福田赳夫元首相の孫である福田達夫衆院議員は「新しい集団をつくっていく」と明言しており、高市氏に抵抗のある中堅・若手を呼び集めて「福田派」再興に動くとみられている。
茂木敏充幹事長の側近で、鈴木宗男参院議員の娘である鈴木貴子外務副大臣ら茂木派の若手議員14人も8日に会合を開いた。茂木派は小渕優子選対委員長ら離脱者が相次ぎ、存亡の危機に立っている。しばらく派閥会合を開ける状況にはなく、茂木氏は求心力維持に躍起だ。総裁選出馬を目指して、側近の鈴木氏らを前面に立てて若手をつなぎとめる狙いが透けて見える。
派閥の溶解は、無派閥議員にとっては好機だ。政敵である麻生太郎氏を牽制するために派閥解消を訴えてきた無派閥の菅義偉前首相に近い坂井学元官房副長官や、同じく石破元幹事長に近い赤沢亮正財務副大臣らも「無派閥情報交換会」を立ち上げた。
そもそも派閥は、総理総裁を目指す実力者(親分)が総裁選に勝利するために仲間(子分)を集めるために旗揚げするものだ。親分は子分の「カネ・選挙・人事」を支援する代わりに、子分は総裁選で親分を全力で応援するというギブ・アンド・テイクの関係で成り立っている。政党と違って法律に基づく集団ではない。あくまでも非公式な徒党である。そもそも派閥結成を禁止することなど不可能だ。
自民党内に権力闘争がある限り、総裁選がある限り、派閥はなくならない。岸田首相が打ち出した派閥解消は、今の親分たち(麻生氏や茂木氏、二階俊博氏ら)を凋落させ、新しい親分を目指す者たち(高市氏、福田氏、小渕氏ら)を台頭させる「親分の世代交代」あるいは「派閥再編」のはじまりと捉えたほうがよい。
今年9月には総裁選がある。岸田首相がその前に退陣すれば、緊急の総裁選がある。そこへ出馬する総裁候補を軸に、新しい派閥が結成され、新しい親分が誕生していくだろう。総裁選が終わり、解散総選挙も終われば、派閥は表舞台に蘇ってくるに違いない。
派閥解散は偽装である。自民党内の派閥勢力図が塗り変わるだけだ。