石破茂首相は自公与党の過半数割れで少数与党政権となった。内閣支持率は解散前の50%台から総選挙後は30%台に急落。来夏の参院選は石破政権では戦えないとの見方が自民党内では広がっている。
来春の予算成立後に退陣に追い込まれ、緊急の総裁選で再び新しい首相を選び直してイメージを刷新し、参院選に臨むという筋書きが最有力だ。
石破退陣の場合の緊急総裁選は、党員投票が大きな意味を持った9月の総裁選と違って、国会議員だけが投票する。永田町の数の論理が勝敗を決するのだ。
そこで重要なのは、派閥(解散したことになっているが、旧派閥の枠組みは緩やかに残っている)だ。
自民党が惨敗した総選挙で、各派閥は勢力を減らした。とはいえ、負け方には度合いの差がある。相対的に影響力を増したのはどの派閥か。来春にも見込まれる総裁選の行方を大きく左右する重要な視点だ。
最大派閥だった安倍派は裏金問題が直撃し、候補者50人のうち28人が落選する壊滅的打撃を受けた。安倍派には石破首相に対する恨み節が募っているが、ただちに石破おろしを仕掛ける力はない。
安倍派5人衆のうち、萩生田光一、西村康稔、世耕弘成、松野博一の4氏は当選し、国会へ戻ってきた。非公認の萩生田、西村、世耕3氏は自公過半数割れの状況で自民会派入りが早くも決定。復権への足がかりを得たものの、仲間が大量落選しており、かつてほどの力はない。
とはいえ、世耕氏は参院幹事長として安倍派参院議員を束ねてきた。参院議員は今回の総選挙で議席を失っておらず、来春に緊急総裁選が行われたら、世耕氏はキーパーソンのひとりになるかもしれない。
第二派閥だった麻生派は候補者40人のうち31人が当選した。衆院では最大勢力に浮上した格好だ。麻生太郎氏は総裁選で高市早苗氏の支持に回って敗北し、石破政権では副総裁を外れて非主流派に転落したが、派閥力学ではなお優位な立場にある。石破首相のことは毛嫌いしており、石破おろしが動き出せば加勢する可能性が高い。
第三派閥だった茂木派は候補者33人のうち、27人が当選した。麻生派と並んで比較的ダメージが少なかったといえる。茂木氏も石破政権では非主流派に転落し、麻生氏と歩調を合わせる構えだ。安倍派に支持基盤があった高市氏の政治基盤が大きく崩れる一方、茂木氏は自前の派閥をそれなりに維持しており、主流派に対抗する総裁候補として浮上する可能性は十分にある。
第四派閥だった岸田派は候補者35人のうち、26人が当選した。一定の勢力は維持したものの、麻生派や茂木派には遅れをとった格好だ。岸田文雄前首相は総裁選で麻生・茂木両氏と袂をわかって石破氏を支持。主流派に踏みとどまり、キングメーカーとして振る舞っている。石破首相が退陣すれば、自ら再登板に意欲を示しているともささやかれているが、岸田派としては林芳正官房長官が本命だ。主流派は林氏擁立でまとまる可能性が十分にある。
二階派は候補者26人のうち、22人が当選した。一定の勢力は温存したものの、二階俊博元幹事長が引退したうえ、事務総長として権勢を誇っていた武田良太元総務相が落選。派閥の結束を維持するのも大変な状況だ。石破政権では主流派の立場になったものの、影響力低下は否めない。
森山派は候補者7人が全員当選した。少数派閥とはいえ、選挙に強いメンバーがそろっている。とはいえ、森山幹事長に対する党内の風当たりは強い。総選挙惨敗の責任を問う声は日増しに高まっている。