イスラエルがイスラム組織ハマスの奇襲を受けて、大規模な報復攻撃をガザ地区に仕掛け、地上軍投入の方針を表明している。
米国のバイデン政権をはじめ欧米政権はハマスの奇襲を「テロ」と断じ、イスラエル支持を打ち出す一方、欧米社会では若者を中心にイスラエルに抗議するデモが広がっている。英国BBCは英国政府の意向を振り切って「テロ」と報じていない。
イスラエルの報復戦争をめぐって、欧米社会は真二つだ。
岸田文雄首相は10月8日、ハマスの奇襲を批判しつつも「テロ」とは呼ばず、双方に自制を求めるコメントを出した。ツイッター(X)に「ガザ地区でも多数の死傷者が出ていることを深く憂慮しており、全ての当事者に最大限の自制を求める」と投稿し、イスラエルの反撃にも懸念を示したのだ。
この前日、バイデン大統領は「あらゆる場所にいるテロリストに対し、米国はイスラエル側に立っている」「ハマスの方を持つことは決してない」と宣言していた。岸田首相はそれを承知でバイデン政権の意向に反するコメントを発したのだ。
岸田首相はウクライナ戦争ではバイデン政権に追従してロシア制裁に踏み切り、ウクライナへの1兆円支援を表明した。今回同調しなかったのは、日本の伝統的な中東外交によるものだ。
日本は中東諸国に原油輸入の94%を依存しており、イスラエルとパレスチナを支持するアラブ諸国とのバランスを重視してきた。今回の首相コメントもこの方針を踏襲した結果だろう。他のG7首脳が9日に発表したイスラエル支持共同声明への参加も見送った。
だが、岸田政権のあいまいな姿勢をバイデン政権は許さなかった。
米国のエマニュエル駐日大使は11日、東京・渋谷の街頭で演説し、イスラエル支持の立場を英語でまくし立てた。
日本の聴衆に対して英語で一方的に訴えるのは奇異な光景だ。聴衆に理解を求めることよりも、演説が報道されることを通じて岸田政権へプレッシャーをかける狙いがあったに違いない。
エマニュエル大使は岸田最側近の木原誠二氏を通じ、岸田外交に大きな影響力を振るってきた。今回も木原ルートでも圧力をかけた可能性が高いだろう。
この翌日、松野博一官房長官は記者会見で、ハマスの奇襲をテロと断じて批判し、岸田総理の当初のコメントをあっさり軌道修正したのである。
やはり岸田政権はバイデン政権には逆らえない。内閣支持率が低迷し、自民党内の政治基盤も磐石でない以上、バイデン政権の後ろ盾を失えばたちまち政権は立ち行かなくなる。来年秋の自民党総裁選で再選を果たすには、バイデン政権の強力な支持を背景に自民党内のライバルたちを抑え込むしかない。
岸田政権はウクライナ戦争と同様、バイデン政権に引きずられるかたちでイスラエルの報復戦争にも巻き込まれていく可能性は極めて高い。さまざまなかたちでの資金拠出などの協力を迫られるだろう。原資は私たちの税金だ。
一方、アラブ諸国との関係がこじれれば、原油調達コストが上がる恐れもある。それは物価高に直面する国民生活にさらに打撃を与えかねない。
対米追従外交が本当に国益にかなうのか。しっかり見定めることが肝要だ。