米国のバイデン政権をはじめ欧米政権は、イスラム組織ハマスの奇襲攻撃に対してガザ地区に報復攻撃を仕掛け地上軍投入の方針も表明しているイスラエルを全面支持している。
これに対して、欧米社会では若者を中心にイスラエルの報復攻撃に対する抗議デモが広がっている。
ロシアがウクライナへ侵攻した際に欧米社会がウクライナ支持一色に染まったのとはまったく違う光景が、いま欧米各地で繰り広げられているのだ。
この違いはどこからくるのだろう。
①イスラエルの圧倒的な軍事力
ひとつはイスラエルが圧倒的な軍事力を持っているだ。
イスラエルは米国に劣らぬ最新軍事技術や諜報機関を持ち、事実上の核保有国でもある。
最初に手を出したのはハマスとはいえ、全面戦争に突入すれば、イスラエルが圧勝する結末は見えている。パレスチナにイスラエルをはるかに超える被害が出ることは間違いない。「過剰防衛」の戦争に終わる恐れは極めて高い。
欧米社会に広がる抗議デモの根底には「ハマスの戦争犯罪に対し、イスラエルは新たな戦争犯罪で対抗している」という共通認識があるのだ。
そもそも世界トップ水準の諜報機関を持つイスラエルが、ハマスの奇襲を事前察知できなかったのかという疑問もわいてくる。イスラエルのネタニヤフ政権の政治的基盤が揺らいでいる最中にハマスの奇襲攻撃が発生したことから、「わざと攻撃を仕掛けさせた」との疑念も欧米メディアにはくすぶっている。
②イスラエルのパレスチナ占領の歴史
ふたつめは、パレスチナに長い長い抑圧の歴史があることだ。
イスラエルは国連決議に反してパレスチナを占領し続けており、ユダヤ人入植者によるパレスチナ人への暴力も相次いできた。
米国はこれを容認し、イスラエルの意に沿う政策を進めてきた。米国の政界や金融界、軍需産業界ではユダヤ系が大きな力を持っており、共和党も民主党もユダヤ系の意向を無視できないためだ。
パレスチナをはじめアラブ社会は、イスラエルと米国に強い怒りを向けてきた。ハマスの奇襲は、追い詰められた側が最後の手段として仕掛けたものだという同情論が欧米社会にも根強くある。
③欧米に広がるイスラム社会
三つ目は、欧米にはイスラム系移民が増えており、彼らの労働力なしには欧米社会が成り立たないという現実があることだ。
圧倒的な軍事力でパレスチナを制圧してきたイスラエルに対するイスラム系移民たちの抗議の声に対し、欧米では若者を中心に共感が広がっている。
④ウクライナ支援疲れ
さいごに、欧米社会に「ウクライナ支援疲れ」が広がっていることも見逃せない。
ウクライナ戦争が勃発した当初、欧米は「ウクライナ=正義、ロシア=悪」の善悪二元論に包まれ、ウクライナゼレンスキー大統領を英雄視する風潮が広がった。
しかし、戦争が長期化するにつれ、欧米社会は物価高に直面。米国ではトランプ前大統領らがウクライナ支援からの即時撤退を主張して世論が割れ、欧州でも隣国ポーランドでウクライナからの穀物輸入をめぐる不満が噴出した。開戦当初のウクライナ支援の機運はすっかりしぼみ、戦争が長期化するほどロシアが優勢になる気配だ。
そのなかで起きた新たな戦争。「もう戦争はいやだ」という空気が欧米社会に広がっていることもイスラエルへの抗議が広がる大きな要因だろう。
ロシアは米国の中東外交の失敗だとして激しく批判し、中国はパレスチナをはじめアラブ寄りの姿勢を示している。これに対して欧米は政権の姿勢と民意がねじれている。
ウクライナ戦争が始まった当初に欧米の政権がメディアが振りまいた「ロシア敗北論」は消え失せ、むしろ欧米社会の分断が進んでいる。国際情勢はますます混沌としてきた。