高市内閣の補正予算案が、与党の自民・維新に加え、野党の国民民主・公明の賛成を得て成立した。
だが、これは単なる予算審議ではない。
この補正予算をめぐる攻防は、各党の立ち位置と、誰が得をし、誰が負けたのかを一気に可視化した「政局そのもの」だった。
高市総理は、この局面で国民民主党と公明党という協力ルートを確保した。
一方で、敗者となったのは維新と立憲民主党である。
では、最大の勝者は誰だったのか。補正予算政局の勝敗表を整理してみよう。
■最大の敗者① 維新
補正予算は12月11日に衆院を通過した。
衆院では自民196、維新34、維新離党組3で、与党系は合計233。ギリギリ過半数だ。衆院通過は想定内だった。
本当のポイントは、国民と公明が賛成に回ったことである。
参院では自民と維新を合わせても過半数に届かない。しかし、国民25、公明21が加われば、余裕で過半数を超える。会期末までに参院可決・成立が確実となった。
ここで重要なのは、参院では「自民+国民」だけで過半数に達するという事実だ。
維新や公明は、もはや必須ではない。
衆院は解散でリセットできるが、参院はそうはいかない。政権の安定を考えれば、維新より国民と組む方が合理的だ。
この補正予算政局で、自民党にとって本当に必要なパートナーが「維新ではなく国民」であることが、はっきり可視化された。
これが維新にとって致命的だった。
自民党は、維新が求める議員定数削減法案を共同提出したものの、成立させる気はない。
維新が「連立離脱」をちらつかせても、自民党は意に介さない。
国民と公明の賛成が見えた以上、維新が抜けても困らないからだ。
補正予算への国民・公明の賛成を目の当たりにし、維新の発言力は一気に低下した。
補正予算政局、最大の敗者は維新である。
■敗者② 立憲民主党
二番目の敗者は、野党第一党の立憲だ。
立憲は当初、国民と公明を取り込み、参院で補正予算を否決する構図を狙った。
「自民・維新 vs 立憲・国民・公明」という対決軸を作り、高市政権に圧力をかける戦略だった。
しかし、国民の玉木代表は高市支持を明言し、立憲との共闘は早々に断念。
立憲は公明にターゲットを絞る。
公明は連立離脱後、自民との関係が悪化していた。
立憲との連携が進めば、大きな成果になるはずだった。実際、予算の組み替え動議を公明と共同提出するところまではこぎつけた。
ところが最終局面で、公明は補正予算に賛成した。
立憲と手を組みつつ、自民との完全決裂は避ける――両にらみ、両天秤である。
自民が維新を軽視し、定数削減法案の成立をサボタージュしていることが明らかになる中、公明も国民も、立憲から距離を取った。
国民に続き、公明も取り込めなかった立憲の影響力低下は否定できない。
■自民党と高市総理は勝者か
自民党内部では、補正予算政局は権力闘争の色合いを帯びた。
維新と親密な菅元総理は、維新の影響力低下とともに存在感を失う。
一方、国民民主党と親密な麻生副総裁は浮上する。
維新と国民の連立入り争いは、菅と麻生のキングメーカー争いの裏返しでもある。
麻生氏が国民に接近し、中選挙区復活論に肩入れする可能性も出てきた。
では、高市総理はどうか。
国民と公明の賛成を取り付け、政権運営は一気に安定した。これは大きな成果だ。
だが、その代償もある。
内閣支持率が高いうちに1月解散を断行し、政権基盤を強化する大義が薄れたのだ。
政権が安定すれば解散の理由はなくなる。
もし1月解散を見送れば、通常国会で支持率が下がる可能性が高い。
その時に国民や公明が協力を続ける保証はない。
解散に踏み切れないなら、高市内閣は勝者とは言い切れない。
■真の勝者は誰か
最大の勝者は、国民民主党である。
維新の存在感を低下させ、高市政権に政策を迫る立場を確保した。
立憲と公明の連携にも楔を打ち、主導権を握りつつある。1月解散を阻止できれば、年明け通常国会では国民民主党の存在感はますます大きくなるだろう。
次の勝ち組は公明党だ。
自民、立憲、国民のいずれとも連携可能なキャスティングボートを維持した。
補正予算をめぐる攻防は、二大政党時代の終焉を鮮明にした。
賛否の行方が注目される国民と公明の存在感こそ、多党制時代の象徴である。
その意味で、政権交代を掲げてきた立憲は、維新以上の敗者だったのかもしれない。
そして、緊縮財政を守り続ける立憲と財務省もまた、この政局の「負け組」といえる。
補正予算は、数字以上に重い政治的意味を残した。