石破政権が、夏の参院選に向けた目玉政策として検討していた補正予算の今国会提出を突如として見送り、注目を集めていた「現金3〜5万円の給付案」は幻に終わった。世論の評判が悪く、野党の協力も得られないため、補正予算を成立させるメドがたたなかったからだ。少数与党国会の厳しい現実を突きつけられたといえる。自民党内からは「これでは参院選を戦えない」と不満が広がっている。
■ 選挙対策の目玉が頓挫
今回の補正予算は、夏の参院選に向けた「人気取り」として、自民党内で構想が練られていた。政権の支持率が低迷する中、現金給付によって国民の関心をつなぎとめようという狙いだった。
しかし、いざ世論調査が出てみると、給付案に対する支持は広がらず、逆に立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の野党勢力が一斉に反発。補正成立の見込みは立たなくなった。
背景には、自公与党が衆議院では過半数を維持していても、参議院では少数与党であるという事実がある。どこか一党でも賛成に引き込まなければ、補正予算は成立しない。
■ 減税拒否のツケ
そもそも、自民党内では「消費税減税を参院選の公約にすべきだ」という声が高まっていた。昨年の裏金問題で大打撃を受けた自民党が、再起をかけるためには国民生活に直結する減税こそが切り札だった。
しかし石破首相はこれを拒否。財務省との関係を優先し、減税論を封じるための代替策として、より安くつく「1回きりの現金給付」を打ち出したが、それすらも頓挫した。
ここで注目すべきは、世論の声である。TBSの最新の世論調査では、消費税減税に「賛成」が61%、「反対」はわずか33%。国民は一貫して「現金給付より減税」を求めているにもかかわらず、政権はその声に背を向け続けている。むしろ、減税を避けるために「一度きりの給付金」でごまかそうとした結果、国民から「ふざけるな!」と怒りを買った格好だ。
■ マスコミ報道はミスリードだらけ
一方、こうした政権の迷走を報じるマスコミは、事態の本質を正確に伝えていない。「世論がポピュリズム的なバラマキ政策に反対した」「政権は無理に補正を通すより方針転換を選んだ」といった報道が目立つが、それは明らかに的外れだ。
国民が反発しているのは、「現金給付」そのものではない。減税という本質的な経済政策を避け、安上がりな対症療法で乗り切ろうとする政権の姿勢こそが批判されているのだ。
しかも、多くのマスコミが世論調査で「現金給付」の賛否しか聞かず、「減税」への賛否には触れないという構造も見逃せない。
これは明らかに、減税論が燃え広がるのを恐れた財務省の意向を忖度した結果だろう。減税を正面から問えば、民意は明らかになる。だからこそ、それを報じようとしない。マスコミの「中立」を装った報道が、かえって世論を歪めている。
■ 減税バトルが参院選の主戦場に
今回の補正予算見送りで、石破政権の「経済無策」が決定的になった。現役世代の多くは、もはや新聞やテレビではなくネットやSNSを通じて情報を得ている。その層には「石破政権は減税を拒否した」という印象が、強く刻み込まれているはずだ。
自民党内でも、特に改選組の議員たちからは「このままでは戦えない」という不満が燻っている。公明党も含め、減税に言及してきた与党勢力が、石破政権の決定に沈黙している姿勢には、違和感すら覚える。もはや、総理官邸と財務省には誰も逆らえないのか?
一方で、野党の動きは活発だ。国民民主党は消費税減税を再公約に掲げ、れいわ新選組は消費税廃止を主張。立憲民主党でも減税派と増税派が対立を深めており、野党再編の火種になりつつある。
今夏の参院選では、これまでの憲法・安全保障といったイデオロギー論争ではなく、「減税か否か」が最大の争点となる可能性が高い。
■ 有権者が選ぶべき「現実」
テレビでは「代替財源のない減税は無責任だ」とするコメントも散見される。しかし、ここで問うべきは、「赤字国債を発行してでも減税を行うか否か」である。これを真正面から議論することこそが、いま政治に求められている姿だ。代替財源の有無を前提に議論を封じるのではなく、その必要性と覚悟を正直に問うことが、政治家にもメディアにも求められている。
これまでの選挙は「右3:左2:無関心5」という構図の中で、イデオロギーの対立に頼ってきた。だが、減税というテーマは、それを超えて人々の「生活」に直結する問題であり、多くの有権者が“自分ごと”として関心を持てる争点だ。こうした論点をきっかけに、より多くの人が政治参加することを、私たちは歓迎すべきだろう。