今年の夏、永田町が最もアツくなる瞬間が訪れる。焦点はただ一つ――内閣不信任案だ。
国会の会期末は6月22日。7月の参院選にむけて各党の対決ムードが高まっていく。そのタイミングで内閣不信任案が最大の焦点となる。
支持率低迷の石破内閣。昨年の衆院選で敗北を喫し、自公与党はすでに過半数を割った。そんな中で内閣不信任案が提出され、可決されれば、石破首相は「内閣総辞職」か「衆院解散・総選挙」の二択を迫られる。
石破首相が衆院解散に踏み切れず、内閣が総辞職となれば、国会で新たな総理を選ぶ総理大臣指名選挙が実施される。ここで重要なのは、与党・野党ともに単独で総理を選出できる議席数を持たないという現実だ。つまり、誰がどこと組むかによって、次の総理が決まる。
今、永田町の裏舞台では、“玉木担ぎ”が進行している。立憲民主党内では、野田佳彦代表では維新・国民民主との連携が困難だとして、国民の玉木雄一郎代表を野党連立政権の総理候補に担ぐ構想が浮上。一方、自民党内にも、玉木氏を擁立することで政権延命を図る「自公国連立」構想がある。
もし自公が玉木氏を総理に据える場合、国民民主党の看板政策である「所得税減税」を丸呑みし、参院選の公約に掲げる戦略も視野に入る。この場合、玉木氏は自民・立憲両陣営から「奪い合い」されることになり、永田町の主役に一気に浮上することになる。
一方、石破首相が衆院解散を決断すれば、7月の参院選と同時に衆参ダブル選挙が行われる。
石破政権の支持率は低迷。商品券スキャンダルやトランプ関税による株価下落なども重なり、選挙ではさらに議席を減らすリスクが高い。自民党内からは「このままでは野党転落も」と危機感が募る。石破首相が強引に解散を打って出る前に(すなわち、内閣不信任案が提出される前に)、党内が退陣を迫る展開も想定される。
では、そもそも内閣不信任案の「可決」を防ぐ道はあるのか?
衆院での過半数は233議席。自公は221議席しかなく、維新(38)や国民(28)を引き剥がさない限り、否決は困難だ。だが、ここにも複雑な思惑が交錯する。
維新の前原誠司共同代表は、石破首相と親しい間柄だが、最近は対決姿勢を強めている。高校無償化を評価して予算案には賛成したが、商品券スキャンダル以降は距離を置いている。国民民主党もすでに反石破姿勢を鮮明にしており、与党が味方につけるのは容易ではない。
その一方で、最後の“裏の一手”が永田町にはある。
それは、「内閣不信任案をそもそも提出させない」という作戦だ。不信任案の提出には衆院議員51人以上が必要で、提出可能なのは立憲民主党しかない。つまり、立憲と水面下で交渉して提出を思いとどまらせることができれば、石破内閣は命拾いできる。
立憲民主党の野田代表にとっても悩ましい。ダブル選挙になれば、支持率上昇中の国民民主党に飲み込まれるリスクがある。実際、党内からの離脱や国民民主への合流を警戒する声もある。さらに、総理指名選挙が行われても、自身には勝算がない。玉木代表を自民と立憲が奪い合う構図になれば、立憲の影がさらに薄れる可能性すらある。
それならば、石破内閣のまま参院選に突入し、選挙後に自民党と大連立を組む――その際に自らが総理の座に就くことを密かに狙う方が得策、と考えていても不思議ではない。
この裏取引の実現を支えるのが、自民党の森山幹事長と立憲の安住予算委員長による“極秘ルート”だ。これまでも国会運営の舞台裏で連携を重ねてきた2人が、内閣不信任案を阻止するための密約を交わす可能性は否定できない。
だが、維新や国民民主はこうした動きを警戒し、牽制を強めている。「不信任案を提出しなければ立憲は野党第一党の責任を果たせない」と前原氏は語り、国民の榛葉幹事長も「政権交代を掲げている以上、出さなければ示しがつかない」と突き放す。立憲が提出を見送れば、“裏切り”の烙印を押され、参院選で大敗するリスクすらある。
つまり、永田町の「不信任案ゲーム」は、単なる多数決ではない。裏と表の思惑が錯綜する知恵比べの様相を呈している。そして、その中心にいるのが、野田佳彦、玉木雄一郎、前原誠司という“三角関係”なのだ。
永田町はこの夏、大きく動く。内閣不信任案が可決されるか否か。その結果、総辞職か解散か。誰が新たな総理に就任するのか。裏でうごめく思惑を読み解けば、日本政治の面白さが2倍にも3倍にも広がる。
――永田町、灼熱の夏はもう始まっている。