右派に人気のベストセラー作家である百田尚樹氏(代表)とジャーナリストの有本香氏(事務総長)が旗揚げした日本保守党が注目を集めている。名古屋市長の河村たかし氏が共同代表に就任するサプライズもあり、政界全体への影響は無視できない。どんな政党なのか、どのくらい議席を獲得するのか、分析してみよう。
日本保守党結成の直接的きっかけは、百田氏がLGBT法反対を掲げ、法案が成立すれば新党を立ち上げると宣言したことだった。旧知の中である有本氏が加わり、旧ツイッター(X)のアカウントを開設したところ、一ヶ月ほどでフォロワー数は31万を超え、自民党を抜いて政党トップに躍り出た。党員もすでに5万人を超えたという。
ツイッターのフォロワー数が必ずしも政党の実力を反映するわけではないが、ちなみに現在のフォロワー数の順位(日本保守党を除く)をみると、①自民党(25.1万)②立憲民主党(18.8万)③れいわ新選組(14.1万)④共産党(13.7万)⑤公明党(11.2万)⑥参政党(11.1万)⑦日本維新の会(7.4万)⑧国民民主党(6.2万)ーーの順になっている。
自前の組織をもたないれいわ新選組や参政党の健闘が目立つ一方、野党第一党の奪取を掲げて躍進している維新はSNSでは意外にも存在感が薄いことがわかる。私は今春の統一地方選で維新の吉村洋文・大阪府知事の演説を関西で聞いたが、思いのほか、高齢者層に歩み寄った印象を受けたことを思い出した。
日本保守党に話を戻そう。瞬く間にフォロワー数がトップに躍り出たのは、激しい右派思想を展開する百田氏が熱狂的な支持層を持っていることを映し出している。
LGBT法への反対が新党結成の直接的動機となったことに象徴されるが、日本保守党の政治理念の根底にあるのは、人権擁護、差別反対、格差是正、環境重視などの理念を掲げるリベラル勢力への嫌悪感だ。安倍晋三元首相を熱狂的に支持してきた「安倍支持層」やSNSで左派への激しい批判(誹謗中傷にあたることも多い)を展開する「ネトウヨ層」の支持を引き寄せているのは、徹底した「反リベラル」の姿勢だ。
当然の帰結として、リベラルに多い護憲派に対抗して憲法9条改正を主張し、リベラルに多い財政再建派に対抗して消費税減税を主張し、アジア平和外交に対抗して反中国・反北朝鮮を全面に掲げることになる。党派的に分析すると、立憲民主党を「仮想敵国」としていると考えれば理解しやすい。
その結果として、日本保守党の旗揚げで票を奪われるとして警戒を強めているのは、右派の支持を集めてきた自民党、維新、参政党だろう。
とはいえ、新党が衆参選挙で議席を急速に増やすのは簡単ではない。
2022年参院選比例区(全国区)で中規模以下の政党の獲得議席と得票数は以下の通りである。おおむね100万票で1議席の割合であることがわかる。
公明 6議席 618万票 (創価学会の組織票に加え、自民党を選挙区で支援した見返りの票などがある)
共産 3議席 361万票 (共産党は高齢化が進んでいるとはいえ、全国に組織を張り巡らせている)
国民 3議席 315票 (連合傘下の大企業系労組などの組織票がある)
れいわ 2議席 231万票 (自前の組織がない新興勢力。無党派層への浸透をめざす。左派)
参政 1議席 176万票 (自前の組織がない新興勢力。無党派層への浸透を目指す。右派)
社民党 1議席 125万票 (老舗政党。組織は残るものの、弱体化が進む)
NHK党 1議席 125万票 (自前の組織がない新興勢力。無党派層への浸透をめざす)
自前の組織を持たない新興勢力である日本保守党の参考になるとすれば、れいわ新選組や参政党だ。全国区の比例代表で議席を積み上げるのがいかに難しいかがわかる。まして選挙区で勝ち上がるのは大変だ。れいわの山本太郎代表でさえ、定数6の東京選挙区でかろうじて最下位に滑り込んだ。
日本保守党はコアな安倍支持層を基軸としてSNSで無党派層への浸透を図り、百田氏の個人的人脈を通じて著名な右派言論人などの擁立を目指すことになろう。だが、候補者擁立が順調に進んだとしても、一回の参院選では1〜3議席を獲得するのが精一杯で、国会のなかで影響力を確保する議席をいきなり保有するのは難しい。
衆院選はさらに厳しくなる。選挙区はひとりしか当選しない小選挙区、比例区は全国11ブロックに分けられており、れいわは2022年衆院選で東京・南関東・近畿ブロックでの3議席にとどまった。
国会で中規模政党として発言力を持つには衆参それぞれに10議席程度は必要だ。日本保守党が2025年までに行われる衆参選挙で一気に中規模政党にのしあがるのは非常に険しい道のりではないか。
中規模政党に届くまで衆参選挙をそれぞれ2回以上経ることになれば、5年以上を要することになる。過去の少数政党の歩みを見ると、勢いが止まったところで内紛が勃発して離合集散を繰り返すことが多かった。
政治経験のない百田氏と有本氏が5年以上にわたって政党の結束を維持して着実に勢力拡大をすすめることができるのか、それほど地道な政党活動を続ける覚悟があるのか。私はやや疑問だ。やはり短期急成長のナローパスを狙っているのだろう。
二大政党とは別の新興勢力で例外的に急成長を遂げたのは維新である。これは大阪の府知事と市長のポストを押さえ、府議会と市議会の多数も握って「地方政権」を樹立することに成功したからだ。
日本保守党はそこで名古屋市で絶大な人気のある河村氏を引き込んだということなのだろう。
河村氏はもともと民主党の衆院議員だった。個性派として知られ、予算委員会で疑惑追及の先頭に立ったり、企業献金の受け入れを拒否したり、庶民派として人気を集めた。名古屋市長に転じた後は右旋回し、百田氏ら右派言論界との関係が強まった。減税を掲げる地域政党を立ち上げ、与野党とは別の独自路線を走ってきた。
日本保守党は河村氏との連携を通じて名古屋を中心に東海ブロックでの躍進をまずは目指し、維新型を追求していると思われる。
とはいえ、河村氏は75歳。維新を立ち上げた当時の橋下徹氏は30代だった。河村氏だけでは短期急成長のシナリオを描ききれない。
動向が注目されるのは、高市早苗経済安保担当大臣だろう。安倍支持層に絶大な支持を受けながら、安倍派からは敬遠され、自民党内では無派閥議員として孤立感を深めている。このまま自民党に残留しても展望は開そうにない。
おそらく百田氏は日本保守党旗揚げに際して高市氏にも参加を呼びかけたのではないか。高市氏は現時点では自重したのだろうが、今度、自民党内でさらに孤立感を深めれば、日本保守党へ移籍する選択肢も出てくるだろう。
そうなると、自民党を支持してきた右派の一部がさらに日本保守党に流れ、岸田政権には痛手となる。
実際、日本保守党の旗揚げが発表された後、右派の岸田離れは加速し、SNSでも遠慮なき批判が広がっている。それに伴って内閣支持率も続落している。
日本保守党がただちに議席を伸ばすことはないとしても、自民党支持層を切り崩す効果は大きい。このような場外戦を通じて自民党の政策決定に影響力をふるうことは十分にある。