自民党内に、静かな地殻変動が起きている。圧勝したはずの政権の足元で「高市おろし」の気配がじわりと広がっているのだ。
高市政権は一見、盤石に見える。衆院選で与党は4分の3を確保し、参院でも過半数を回復。内閣支持率も高水準を維持している。通常であれば、政権基盤は揺らぎようがない。
しかし現実は逆だ。政権中枢では不穏な軋みが生じ、自民党内には不満と警戒が蓄積している。
その震源地として浮上しているのが、官邸内の“内乱”である。
発端は月刊誌『選択』の報道だった。高市首相が自衛隊派遣に前のめりとなり、それを制止するために官邸幹部が執務室に乗り込み、激しいやり取りがあったという内容だ。この幹部こそ、安倍政権で「影の総理」と呼ばれた今井尚哉氏である。
報道によれば、今井氏は高市氏に強く詰め寄り、これに対し高市氏が「それなら辞める」と口走る場面もあったという。結果として自衛隊派遣は見送られたが、高市氏は今井氏の更迭を検討しているとも伝えられた。
もっとも、この報道はその後、当事者双方によって否定される。高市首相は国会で「事実ではない」と説明し、今井氏も週刊誌の取材に対し「執務室に乗り込んだことはない」「直接やり取りもない」と反論した。
ただし興味深いのは、高市氏が当初SNSでは他の報道を批判しながらこの報道には触れず、その後、国会で質問されてようやく全面否定に踏み切った点だ。水面下での調整、すなわち“口裏合わせ”の時間が必要だったのではないかという見方も浮上する。
では、この騒動で得をしたのは誰か。結論から言えば、今井氏である可能性が高い。更迭論が浮上しながらもポストにとどまり、引き続き官邸中枢に影響力を維持している。一方で高市首相は、「強硬すぎる」「統治に不安がある」というイメージを植え付けられた。
そもそも今井氏は、高市政権にとって両刃の剣だった。安倍政権の継承をアピールするうえで不可欠な存在である一方、経産官僚出身の現実主義者として、首相の政治的衝動を抑え込む役割も担う。特に対中政策や解散戦略をめぐっては、両者の間に温度差があったとされる。
今回の騒動は、その潜在的な対立が一気に噴出したものと見ることができる。
さらに注目すべきは、週刊誌報道が描き出した高市首相の“官邸生活”だ。総理執務室の奥に設けられた「隠し部屋」、限られた側近のみが出入りを許される閉鎖的な環境、不規則な生活リズム――。こうしたディテールは、政治指導者としての資質というよりも、「統治スタイル」への疑念を喚起する効果を持つ。
つまり、単なるゴシップではない。高市政権の“統治能力”に対する疑問を、じわじわと世論と党内に浸透させる装置として機能している可能性がある。
では、その背後にいるのは誰か。
今井氏の経歴をたどると、ヒントが見えてくる。通産省出身で、財界に強固なネットワークを持ち、安倍晋三政権では経済・外交の実務を取り仕切ったキーパーソン。財務省とも一定の協調関係を築きながら、政権運営のバランスを取ってきた。
その今井氏を軸に、財界、財務省、そして党内実力者が緩やかに連携する――いわば「包囲網」の存在が取り沙汰されている。
党内に目を向ければ、麻生太郎、岸田文雄といった重鎮が、高市政権の先行きに距離を取り始めている。ポスト高市をにらんだ動きも水面下で進み、「次」を見据えた布石が打たれているとの観測は根強い。
高市首相にとって不利なのは、その政治的出自だ。もともと党内主流派とは異なる経歴を持ち、財務省や財界とのパイプも太くはない。いわば「自民党の中の異端」である。そのことが、いざという時の支えの弱さにつながっている。
では、高市首相は追い込まれる一方なのか。そうとも限らない。反撃のカードも存在する。
一つは党人事だ。党執行部の刷新、とりわけ幹事長ポストにメスを入れることで、党内力学を一変させる可能性がある。旧安倍派や旧二階派の一部を取り込み、独自の権力基盤を再構築するシナリオは十分に現実的だ。
もう一つは、政局の主導権を握ることだ。解散・総選挙という“最大の武器”をどう使うか。ここで主導権を失えば、包囲網は一気に収縮する。
高市政権は今、外からではなく内側から試されている。表面上の安定とは裏腹に、官邸と党、政治と官僚、理念と現実のせめぎ合いが激化している。
「盤石」に見える政権ほど、内部から崩れる――。
その典型例となるのか。それとも、包囲網を打ち破り、独自の政権基盤を築くのか。自民党内の静かな内乱は、すでに次の政局の序章となっている。