国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が7月17日、来日後初めて記者会見し、新型コロナウイルス感染拡大への懸念について「日本国民にリスクを与えない」と強調したうえで、「世界でも最も制約のかかっている大会だ。お互いを信頼しあわないといけない。対策を信じて欲しい。効果は出ている」と語った。
一方で、IOCや東京五輪組織委員会は、東京・晴海に13日オープンした選手村に滞在する選手・関係者が検査で陽性になった場合、国籍、年齢、性別、肩書のほか、滞在日数や移動経路、詳しい症状などを公表しない方針を明らかにしている。
毎日新聞報道によると、五輪期間中に選手村を利用するのは約1万8000人。選手・関係者に陽性が確認された場合、人数と陽性判明日、参加している立場(選手、役員、報道など)、入国後14日以内か以降かなどは公表する一方、症状や入院の有無、国籍、性別などは「プライバシー」を理由に公表しないという。組織委はそもそも各国・地域の選手団の入村状況や人数も公表していないため、陽性者の人数を公表したところで選手村内の感染の広がり具合は判断できないのが実情だ。
バッハ会長がいくら「信じてほしい」と言ったところで、選手・関係者の感染データを非公開にしているようでは「信用しろ」というほうが無理な話だ。しかも、大手新聞社は東京五輪スポンサーであり、大会開催に水を差す情報の報道を控えることが懸念される。国民の間で不信感が強まり、ネットを中心に「選手・関係者が街に出回っている」「選手村は無法地帯だ」などという情報が飛び交うのは当然の帰結であろう。情報公開を徹底して国民の理解を得ようとしないIOCや東京五輪組織委が悪いのだ。
そもそも世界各地でコロナの感染拡大が続くさなかに、しかもワクチン接種率が先進国最下位というコロナ対策に出遅れた日本で、世界中から大勢が集結する世界最大級の巨大イベントを開催するのが無理筋である。どだい無理な話を強行しようとしている以上、「プライバシー」を理由に情報開示を拒むのはナンセンス極まりない。「安全・安心を最優先にする」と言いながら「プライバシー」とは、いったいどういうことか。
そうしたIOCや東京五輪組織委の隠蔽体質を許している菅政権の責任も重大だ。
16日の広島訪問に続いて、18日は迎賓館での歓迎会に出席するバッハ会長。日本国民には移動や宴会の自粛を呼びかけながら、バッハ会長は特別扱いする菅政権の姿勢は、国民感情を逆なでするだろう。菅政権がそれを承知であえて予定通りにスケジュールをこなしていくのは、バッハ会長に頭が上がらないのか、国民を見下しているのか、私には皆目理解できない。
秋の総選挙を控え、国民の怒りを買ったら損するだけなのに、それでも走り出したら止まれないとしたら、この国の行政はもはやブレーキが壊れ、制御不能に陥っているのだろう。そのような行政に、希望者全員へのワクチン接種がはたしてできるのだろうか、まったくもって怪しい限りである。