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石破政権の人事を読む〜石破茂・菅義偉・岸田文雄連合が成立、麻生太郎と高市早苗を外す「脱麻生・脱安倍」人事〜高市は総務会長固辞で反旗、反主流派色を鮮明に

石破茂政権の人事が見えてきた。一言で言うと、これは「脱麻生・脱安倍」政権といってよい。
自民党総裁選の第一回投票でトップに立ったのは、高市早苗氏だった。安倍支持層の絶大な人気をベースに党員投票で躍進。土壇場で麻生太郎氏の支持を得て国会議員票も大きく積み増し、首位で決選投票で進んだ。
石破氏が国会議員中心の決選投票で逆転できた理由は二つある。
①高市氏への警戒感が広がった。あまりに右傾化していることを中間層が懸念して自民党から離反し、総選挙に勝てないという危機感が広がった。さらに高市氏の推薦人13人が裏金議員だったため、総選挙で裏金逆風が再燃することへの懸念も強まった。
②麻生氏が高市政権でさらなるキングメーカーとして君臨することへの恐怖が広がった。

ここから土壇場で「高市包囲網」が出来上がり、石破氏が消去法で選ばれたのだ。
この結果、石破氏・菅義偉氏・岸田文雄氏の同盟が成立し、新政権の人事で麻生氏と高市氏を徹底的に外すことになったのである。

具体的な人事をみていこう。

①菅義偉副総裁
麻生氏を副総裁から外して、代わりに副総裁になったのは、菅氏だ。
今回の総裁選は麻生vs菅のキングメーカー対決だった。菅氏は小泉進次郎氏を担いで惨敗。麻生氏は土壇場で高市氏に乗って敗れた。キングメーカー対決は共倒れに終わったといっていい。

菅氏は第二のカードとして石破氏とも良好な関係を維持していたため、生き残った。しかし、いったんは石破氏を見捨てて小泉氏を担いだため、一時は石破氏との間にすきま風が吹いた。最後にアンチ麻生、アンチ高市で連携したものの、石破氏は菅氏に依存して勝利したわけではなく、人事ではフリーハンドを得たといえる。
ただ、石破氏の党内基盤は極めて弱い。ここは「脱麻生」を優先して菅氏と組むことにしたのだ。
石破政権で菅氏はキングメーカーと呼ぶほどの圧倒的な影響力はないだろう。
しかし、菅氏は公明党に近い。目前に迫る総選挙で、公明党との窓口役となるのは確実だ。石破政権で一定の影響力は保つことになる。

②森山裕幹事長

森山氏は鹿児島市議から国政に転じた叩き上げの政治家である。79歳の大ベテランだ。遅咲きといっていい。

安倍・菅政権で二階俊博幹事長に重用され、国対委員長として頭角を現した。岸田政権では選対委員長に転じてさらに実力を蓄えた。国会対策にも選挙対策にも精通したやり手だ。菅氏にも岸田氏にも信頼され、現在の自民党では党内調整ができる稀有な政治家のひとりである。高齢のため、首相になる意欲を示していないことから、菅氏も岸田氏も安心して重用することができたのだろう。

党内基盤の弱い石破氏は、その森山氏を幹事長に抜擢した。脱麻生・脱安倍を進めるため、石破・菅・岸田の同盟を強化するための要の役割を期待しての起用だ。

森山氏は石破氏と同じ農水族の大物議員でもある。農政を通じて旧知の間柄で、起用しやすい側面もあっただろう。

森山氏は財務省とも密接な関係を築いている。麻生氏に代わる財務省の代弁者になりそうだ。石破も緊縮財政論者で、財務省には石破・森山体制に歓迎ムードが広がっている。

③小泉進次郎選対委員長
菅氏に担がれて出馬したものの、3位に沈んだ小泉進次郎氏。とくに選択的夫婦別姓法案を一年以内に提出する公約が保守の党員の反感を買い、党員票で失速したのが響いた。

しかし、一般世論調査では高市氏よりも人気がある。総選挙の顔としては最適だ。

石破氏も小泉氏に選挙の顔としての役割を期待。森山幹事長が地味で、選挙の顔にはなりにくいため、小泉氏との役割分担で10月解散総選挙、さらには来年夏の参院選に臨む方針だ。

④林芳正官房長官 
内閣の要の官房長官は、岸田派ナンバー2の林芳正氏が続投することになった。

官房長官は通常、首相の右腕として同じ派閥から起用されることが多い。総裁選で戦った相手を起用するのは極めて異例である。林氏の起用は、石破氏が「脱麻生・脱安倍」を進めるにあたって岸田派との連携をいかに重視しているかを物語るものだ。林氏は麻生氏と不仲である。麻生氏は林氏の官房長官起用に最後まで反対した。その林氏を続投させたのは、麻生支配からの決別宣言といっていい。

副総裁に起用した菅氏がキングメーカーとして君臨することを防ぐため、岸田派を重用し、バランスをとる狙いもあるだろう。

林氏は外相、防衛相、文科相、農水相、官房長官を歴任した実力派である。総裁選でも4位に健闘。石破政権でも中枢に踏みとどまったことで、ポスト石破の有力候補としての立場を確保した。

⑤小野寺五典政調会長
政調会長に起用された小野寺氏も岸田派だ。官房長官と政調会長を同じ派閥出身者が占めるのは異例である。ここにも岸田派重視の姿勢が出ている。
小野寺氏は石破氏と同じ防衛族議員。農水族の森山氏と同様、石破氏が個人的に知っていて実力を評価している議員を党幹部に起用したといえるだろう。

⑥岩屋毅外務大臣 
私が最も注目したのは、外相人事である。

岩屋氏は総裁選で石破選対の本部長を務めた最側近だ。もともと麻生派に所属していた。今回の総裁選に向けて麻生派を離脱し、石破氏を全面支援したのだ。まさに麻生氏といち早く決別して石破氏を応援したのである。

前任の上川陽子外相は麻生氏にポスト岸田に持ち上げられ、総裁選にも麻生派から推薦人9人を借りて出馬にこぎつけた。まさに麻生氏に屈して総裁候補の立場を手に入れ、麻生氏の庇護のもとでが外相留任を目指したのである。

その上川氏を切り捨て、麻生氏と決別した岩屋氏を外相に抜擢する人事は、まさに「脱麻生」政権のシンボルといえるのではないだろうか。

⑦加藤勝信財務大臣
菅氏に近い加藤氏は総裁選最下位に終わった。しかも国会議員票が16票にとどまり、推薦人20人のうち少なくとも5人が裏切ったとして話題を呼んでいる。
その加藤氏を財務相に起用したのは、茂木敏充幹事長への当てつけだ。

加藤氏は茂木派に所属し、茂木氏のライバルだ。その茂木氏は今回の総裁選で麻生氏に見捨てられ、麻生・岸田と決別し、岸田政権で進めた防衛増税の廃止を打ち上げた。これに岸田氏は激怒したのだ。

石破氏が加藤氏を重用したのは、岸田氏の意向を踏まえ、茂木氏を窮地においやるためだろう。ここにも岸田氏への配慮がみてとれる。

⑧高市早苗氏は総務会長を固辞

石破氏は決選投票で戦った高市氏に総務会長を打診し、固辞された。高市氏は幹事長を期待したのだろう。かつて決選投票で石破氏を逆転した安倍氏は、石破氏を幹事長に処遇した。高市氏は今回は自分が幹事長に起用される番だと思ったに違いない。

石破氏はそれを承知で高市氏に総務会長を打診した。総務会長は党四役とはいえ、存在感は薄い。高市氏が激怒して固辞することは織り込み済みだったろう。つまり、高市氏を外したのだ。

ここに今回の人事が「脱麻生・脱安倍」体制の樹立を目指していることが凝縮されている。

高市氏を外せば、安倍支持層が石破政権にネガティブキャンペーンを仕掛ける可能性がある。右派の一部は日本保守党などへ流れていく可能性もある。それでもなお「脱安倍」を進める覚悟を石破氏は固めたということであろう。

そのためにも菅氏や岸田氏との連携を強化するしかなかったのである。

⑨麻生太郎氏は最高顧問に

麻生氏は副総裁を外れて最高顧問になった。これは名誉職だ。完全失脚である。

麻生氏は総裁選最中に84歳になった。政界最高齢の二階俊博氏は85歳。裏金事件を受けて次の総選挙には出馬せず、政界引退することが決まっており、最高齢は麻生氏となる。

だが、キングメーカーから陥落したことで、麻生氏にも10月引退説が強まりそうだ。麻生氏が引退すれば、唯一存続している麻生派も解体の危機である。麻生氏あっての派閥だからだ。

そうなれば、石破氏は総選挙で「脱派閥」をアピールし、古い自民党からの決別を訴えることができる。麻生氏を引退に追い込むのかどうかが衆院解散時のひとつの焦点となろう。

石破氏は当初、10月9日解散・27日投開票を想定して早期解散を打ち出した小泉氏に対抗して、予算委員会を開催した上で10月中下旬の解散(11月10日投開票)をにじませていた。しかし10月27日には自民党位議員のスキャンダル辞任に伴う参院岩手補選が予定されており、自民党の不戦敗がほぼ確定している。新政権の初戦が不戦敗なら、せっかくのご祝儀相場が冷めかねない。石破氏も総裁選後は一転して早期解散を唱え始めた。

10月1日に石破内閣発足、4日に所信表明、7日から衆参代表質問、そして9日に党首討論を開いてただちに衆院解散、15日公示、27日投開票の日程が有力である。

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