自民党内で「石破おろし」の動きが激しさを増している。首相の顔を代えて夏の参院選に勝とうという思惑は、もはや隠しようがない。
しかし、石破茂首相が退陣すれば、自民党の計画通りに事が運ぶとは限らない。現在の衆議院では自公与党が過半数を割っており、新しい自民党総裁がそのまま総理に就任できる保証はどこにもないからだ。
石破内閣が総辞職した場合、どのような展開が待ち受けているのか。
今後の政局のシナリオを先取りして解説する。
「石破おろし」に警鐘を鳴らす森山幹事長
自民党の森山裕幹事長はテレビ番組で「石破おろし」を牽制する発言をした。
「少数与党ですから、顔を代えて、我々自民党から総理を選べるかどうかというところが、まずファジーでございます」
「ファジー」とは曖昧な表現だが、要するに「石破を引きずりおろせば、総理の座を野党に奪われ、参院選前に政権転落するかもしれない」という警告である。
通常ならば、自民党総裁選が行われた後、新総裁が総理に指名される。しかし、今回は「通常ではない」。衆議院では自公が過半数を割り、野党各党が結束すれば、立憲民主党の野田佳彦代表が総理に選ばれる可能性もある。
そうなれば、自民党は参院選を前にして野党に転落する。森山幹事長は、反主流派にそのような危機感を植え付け、「石破おろし」を封じようというわけだ。
昨年の総理指名選挙が示す野党の分裂
実際に野党が結束して野田政権を樹立する可能性はあるのか?
昨年の衆院選後の総理大臣指名選挙では、野党連携が成立しなかった。
【第一回投票】
- 石破(自公):221票
- 野田(立憲):151票
- 馬場(維新):38票
- 玉木(国民):28票
- 山本(れいわ):9票
- 田村(共産):8票
過半数(233票)を得た候補はおらず、石破と野田の決選投票へ。
【決選投票】
- 石破:221票
- 野田:160票
- 無効:84票(維新、国民、れいわなど)
維新、国民、れいわは「どちらの味方にもならない」立場を貫いた。背景には、立憲民主党が衆院選で他の野党と連携せず、各地の選挙区で激突したことがある。
衆院選で自公与党を過半数割れに追い込み、野党連立政権を誕生させるつもりなら、衆院選の前から、他の野党に選挙区を譲ったり、政策で譲歩して共通公約をつくったりして、野党間の連携を強めておく必要があった。
立憲民主党は野党第一党として、そのようなかたちで野党をまとめあげる役割を放棄し、自分たちの議席を増やすことに邁進したのである。ハナから野党連立政権を誕生させるつもりはなかったのだろう。
せっかく自公与党が過半数を割っても、野党連立政権をつくる機運はまったく芽生えず、自公少数与党政権が誕生したのだった。
今回の総理指名選挙も同じ結果に?
では、今回の総理指名選挙ではどうなるのか。
結論として、昨年と同じ展開が予想される。立憲の姿勢に大きな変化はない。維新、国民、れいわは「自民にも立憲にも乗らない」姿勢を維持し、決選投票で自民党新総裁が勝利する可能性が高い。
各党にはそれぞれの思惑がある。
- 維新:自公政権の補完勢力と見られると参院選で不利になるため、対決姿勢は強めるものの、参院選前に立憲の野田政権誕生をサポートしても何もいいことはない。
- 国民民主党:自公与党と所得税減税で決別して支持率を伸ばしており、対決姿勢は維持。他方、立憲の支持率を上回る勢いがあり、立憲と組んでも何の得もない。
- れいわ:そもそも与野党どちらとも一線を画している。
結果として、新しい自民党総裁が決選投票で勝利し、引き続き自公政権が続く可能性が高い。
ウルトラCの「玉木政権」誕生の可能性?
しかし、もう一つのシナリオとして、「玉木雄一郎総理」誕生の可能性がある。
- 自民党の新総裁が人気を得られず、参院選前に支持率低迷
- 国民民主党の「減税政策」を受け入れ、連立政権に引き込んで、内閣支持率をアップを狙う
- とはいえ、国民民主党は「玉木入閣」だけでは連立に加わらない。
- さりとて、所得税減税もガソリン税減税も丸呑みしたうえ、「玉木総理」を提示すれば、加わるだろう
このシナリオでは、自民党は総理ポストを譲ることで支持率アップを狙う。しかし、
- 新総裁が総理の座を明け渡すか?
- 森山幹事長ら減税に慎重な自民主流派(緊縮財政派)を一掃できるか?
- 自民党内の非主流派も「総理大臣の明け渡し」に納得するか?
これらのハードルを越える必要がある。
しかし、自公与党が衆院選に続いて参院選でも惨敗し、過半数を割るようなことになれば、いよいよ政権から転落することは避けられない。「野党に転落するくらいなら、総理大臣を明け渡しても、政権与党に踏みとどまりたい」という危機感が高まれば、「玉木総理」を受け入れる空気は強まるかもしれない。
自民党は1990年代に野党に転落した時、社会党の村山富市を首相に担いで政権に復帰した。今回は野党転落を予防的に回避するために、先手を打って総理大臣を明け渡すという奇策を採用する可能性はあながち否定できない。
参院選を前に国会は大混乱へ
いずれのシナリオにせよ、石破退陣後の国会は大混乱が必至だ。
石破首相は「自分が辞めたら、首相指名選挙で野党連立政権が誕生し、自民党は参院選前に野党に転落するかもよ!」と自民党内を牽制して粘るだろう。とはいえ、石破政権のままでは、参院選惨敗の現実味が増してくる。
さて、自民党内の政局ははどう動くのか。今後の展開に注目したい。