内閣支持率が2割台に低迷するなか、石破茂総理が起死回生の一手として選んだのは、若き改革派・小泉進次郎農水大臣との連携だった。「主食の安定供給」を名目に掲げたコメ増産政策をめぐり、総理と大臣の力関係が逆転するという異例の政権構図が誕生しつつある。その裏には、総理続投への執念と、影の総理と呼ばれる森山幹事長からの自立、さらには野党・立憲民主党との大連立をにらんだ微妙な駆け引きが交錯する、複雑な政治力学が見え隠れしている。
石破総理が進次郎にすがった理由
6月5日、石破総理はコメに関する関係閣僚会議を開き、「主食の安定供給」を強調。進次郎農水大臣が打ち出した「コメ増産」方針を、全面的に支持する姿勢を打ち出した。
この動きは異例である。というのも、石破氏自身、かつて農水大臣を務めた際に「生産調整廃止」に言及し、農水族からは「史上最低の農水大臣」と酷評された経緯がある。農水族と距離を置くその姿勢が、いまになって再び前面に出てきた形だ。
一方、農水族の総本山である森山幹事長は、コメの備蓄米放出には一定の理解を示しつつ、増産や輸入拡大には強く反対している。農協の利益を守るため、米価を維持し続けてきた農水族にとって、進次郎の政策は“聖域”への挑戦に他ならない。
だが、進次郎の登場によって世論の関心が一気に高まり、まるで「小泉劇場2幕目」の様相を呈してきた。かつて父・純一郎が郵政族を「抵抗勢力」に仕立てて喝采を浴びたように、今度は息子が農水族と対峙する構図が鮮明になりつつある。
ここに乗ったのが石破総理だ。支持率低迷、参院選惨敗の恐怖、立憲による内閣不信任案の可能性…。これらを一挙に打開するカードが、進次郎との連携だった。
森山幹事長からの自立を目指して
石破政権を支えてきたのは、実は森山幹事長の“政局マネジメント”だった。少数与党の中で、予算案通過のために維新の教育無償化を丸呑みし、立憲の主張する高額療養費の患者負担引き上げの見送りを受け入れ、さらには年金改革でも立憲案を丸呑みした。立憲との水面下の密約によって、内閣不信任案提出を回避に動いてきたのが森山氏だったのである。
だが、その森山氏が突如として進次郎を農水大臣に起用した。進次郎人気を利用して農水族への批判をかわす狙いだったかもしれないが、結果的にブーメランのように批判は農水族そのものへ向かってしまった。
ここに、石破総理にとっての“転機”が訪れる。
「進次郎と組めば支持率が上がる」「そうなれば、もはや森山幹事長に頼らずとも不信任案は出されない」。石破総理はそう読み、進次郎との連携を本格化させる。6月上旬には、党幹部に「不信任案が出れば、採決前に衆院を解散する」と通告した。
この発言が意味するのは、森山幹事長からの決別であり、同時に立憲との密約の否定である。
緊張する野田立憲との関係
立憲の野田代表は、これまで「関税交渉が続くなかで解散総選挙は避けるべき」という理由で、不信任案提出には慎重姿勢を示してきた。だが、石破総理が「解散で対抗する」と強硬姿勢を示したことで、野田代表の心にも揺らぎが生じる。
「森山さんとの密約は生きているのか? 石破さんとの間に溝ができているのではないか?」という疑念が、立憲側に広がった。
まさに、この隙を突いたのが進次郎ラインだ。
裏から動く前原の存在
この緊張関係を巧みに利用しているのが、維新の前原誠司共同代表である。前原氏は石破総理の盟友であり、野田代表とは旧民主党時代からの“戦友”でもある。
前原氏は記者会見で「石破総理は不信任案が出されれば解散で対抗するという姿勢を崩していない」と明言。これは、石破総理の意向を、あえて“代弁”した発言だろう。直接語ることが難しい石破氏が、信頼する前原氏を通じて、世論や政界へメッセージを送ったと見るのが自然だ。
さらに前原氏は、5月下旬に野田代表と会談し、「関税交渉が行き詰まれば、不信任案提出の可能性もある」と語った。つまり、進次郎ラインと森山ライン、そして立憲との関係が一挙に動くタイミングは、外交交渉次第ということになる。
石破は進次郎か、森山か――岐路に立つ政権
いま石破総理は、大きな選択を迫られている。
農水族・森山幹事長と組んで、立憲との大連立に舵を切るのか。
それとも、進次郎と組み、「小泉劇場バージョン2」で支持率を回復し、政権を維持するのか。
いずれを選ぶにしても、石破政権の延命戦略は、進次郎という“劇薬”を取り込むことから始まっている。
解散権をちらつかせながら、内外の圧力と支持率の波をどう乗り切るか――石破総理の真価が、まさに問われている。