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石破続投論が突きつける「民主主義の危機」〜最新世論分析

自民党総裁選が9月に前倒しされる可能性が濃厚となり、石破茂総理の退陣は避けられない情勢となっている。だが世論調査を見ると、奇妙なねじれが生じている。NHK調査では「石破続投」賛成が49%、「反対」が40%。TBSでも「辞任不要」47%が「辞任すべき」43%を上回ったのだ。

衆参両院選挙で過半数を失い、国民から明確に不信任を突きつけられた総理に対し、「続投せよ」という世論が優勢に立っている。これは議会制民主主義の原則に照らせば極めて異常な現象である。

与野党支持層の分断と「大連立論」

なぜこのねじれが起きているのか。調査によれば、「他の内閣よりましだから」という消極的理由が多い。ポスト石破として浮上する高市早苗氏や小泉進次郎氏より、石破の方が無難と見る層が一定数存在する。
さらに注目すべきは支持層ごとの差だ。与党支持層の68%が「石破続投」に賛成し、野党支持層の55%は反対した。

しかし野党の中でも立憲民主党支持層は63%が「辞任不要」と回答している。国民民主や参政党支持層の多くが「辞任すべき」と答えているのと対照的である。
つまり、与野党を率いてきた従来の二大政党の支持層(自民・立憲)は石破続投に傾き、新興の国民・参政の支持層は退陣を求めている。

立憲の野田代表が石破政権に接近する一方、参院選で躍進した国民の玉木代表と参政の神谷代表が石破政権との連立を否定しているのも、こうした支持層の意向を反映した動きといえよう。

立憲は国民や参政と距離を置き、自民との「大連立」構想さえ囁かれるようになっている。

世代間で鮮明な断絶

この構図は世代別の支持率をみるとさらに鮮明になる。

NHK調査によれば、80歳以上の自民支持率は50%を超える一方、国民・参政はわずか0.5%に過ぎない。だが現役世代に目を移すと、40代では参政12.5%、国民11.7%が自民14.1%に肉薄し、立憲は0.8%と壊滅的だ。39歳以下の若年層では国民19.4%、参政16.1%が自民10.5%を抜き、立憲は2.4%にとどまった。
つまり、自民と立憲は高齢世代の支持に依存する政党、新興の国民・参政は若者・現役世代に支えられる政党である。

石破続投の支持率も年代が高くなるほど上昇し、80歳以上では63%が賛成、39歳以下では27%しか賛成しない。石破続投を後押ししているのは高齢世代であり、若者は明確に退陣を求めているのである。

新聞やテレビがこの対比を強調せず石破擁護に傾くのは、視聴者・読者の中心が高齢層だからだろう。世論の分断は、世代間断絶としても顕在化している。

石破「居座り」の危うさ

問題は石破続投が民主主義の根幹を揺るがしかねないことだ。

石破氏は衆院・参院選の双方で「与党過半数」を自ら勝敗ラインと設定しながら、それを割り込んだにもかかわらず居座りを宣言した。これは明白な「約束破り」であり、選挙による政権審判の否定である。
本来なら、選挙で敗れた時点で潔く退陣し、国民の審判を受け入れるのが民主主義の基本だ。

ところがリベラルメディアは「選挙に負けたのは旧安倍派のせい」「安倍派による石破おろしは不当」と擁護に回る。石破総理が旧安倍派の議員を排除せず、公認まで与えて選挙戦を戦った事実を無視している。小泉純一郎総理がかつて郵政選挙で反対派を除名した例と比べれば、その責任回避は明らかだ。

今、石破総理が旧安倍派を批判するのは、退陣を免れるための方便にすぎない。危機を乗り切れば再び手を結ぶ可能性も否定できない。

最高権力者である総理が責任を回避し、メディアがそれを免罪する状況は、「権力監視」の機能不全を意味する。

民意なき総理の危機

選挙で敗北し信任を失った総理が続投する最大の問題は、権力を行使する正統性を欠くことにある。

戦争、巨大地震、原発事故、金融危機――国家的危機において総理は賛否が割れる決断を迫られる。そのとき、「選挙に負けた総理に決断の資格があるのか」と問われれば、答える術はない。
議会制民主主義において、権力の正統性は、選挙の勝利によってのみ担保される。敗北した総理が居座り、権力を行使し続けるのは、独裁政治にほかならない。

石破総理が「戦後80年談話」を発表する構想もあるが、たとえそれが素晴らしい内容であったとしても、選挙で信任を失った総理に国論を二分する歴史談話を語る資格はない。

今この瞬間、国家的危機が起きれば、日本の政治は麻痺する。権力の正統性が揺らいでいる石破総理は一刻も早く退陣すべきである。