参院選での大敗を受け、石破政権はいま最大の危機に直面している。党内から自民党総裁選の前倒しを求める声が噴出し、事実上の「総裁リコール」に発展しかねない情勢だ。
そんな窮地に追い込まれた石破総理が相談を持ちかけたのは、小泉進次郎・農水相ではなく、その父・純一郎元総理だった。
二人の会談は8月24日夜、都内のホテルで約2時間半に及んだ。小泉氏は政権時代の側近である山崎拓元副総裁、武部勤元幹事長を伴い、石破側からは赤沢亮正経済再生相が同席した。
話題の中心はもちろん、石破政権の命運を左右する政局対応だ。小泉氏が2005年、郵政民営化法案の否決を受けて衆院解散に踏み切り、国民の圧倒的支持を背景に反対派を一掃した「郵政選挙」の記憶がよみがえる。
いま永田町では、この会談が「裏金解散」の布石ではないかとの憶測が広がっている。
郵政劇場の再演か
2005年夏、小泉総理は党内の猛反対を押し切って郵政解散に踏み切り、世論の熱狂を背景に圧勝した。造反議員を「抵抗勢力」と断じ、対抗馬を次々に送り込む劇場型政治は、まさに国民を味方につける大胆な賭けだった。
今回の石破政権を取り巻く状況は、それと奇妙なほど似通っている。党内基盤は脆弱で、旧安倍派や麻生派、旧茂木派といった有力派閥はこぞって総裁選の前倒しを画策する。一方で世論調査では石破続投を支持する声が優勢で、内閣支持率も持ち直しつつある。党内で孤立しながらも国民世論を味方につける構図は、小泉劇場を想起させる。
小泉氏のモットーは「ピンチこそチャンス」。絶体絶命の危機を逆手にとり、衆院解散で国民に信を問うしかない――。石破総理にそう助言したとしても不思議ではない。
イエスマンの必要性
小泉政権の郵政解散を仕切ったのは、当時幹事長だった武部勤氏だ。党内で誰もが予想しなかった起用だったが、小泉氏は「絶対に逆らわない人物」を選んだ。武部氏もまた自らを「偉大なるイエスマン」と称し、小泉劇場を支えた。
今回の会談に同席した赤沢経済再生相の存在は、その再現を思わせる。鳥取2区選出の赤沢氏は、石破総理の地元仲間であり、数少ない忠実な側近だ。内閣発足直後にはいきなり米国との貿易交渉担当に抜擢され、厚い信頼を得てきた。石破総理が赤沢氏を同席させたのは、総裁選の選対幹部というよりも、解散総選挙を仕切る「幹事長」としての布石かもしれない。
最大の壁は石破自身
ただし、郵政解散と今回の「裏金解散」構想の間には決定的な違いがある。それは石破総理自身の資質だ。
解散権は「総理の伝家の宝刀」と呼ばれるが、行使すれば全衆院議員の首を一瞬にして切り落とすことになる。味方の議員でさえ内心では反対する「狂気の沙汰」だ。
近年の総理で、逆境を跳ね返すためにこの宝刀を振り下ろして勝利したのは小泉氏だけ。菅義偉氏も岸田文雄氏も、結局は解散を打てずに退陣に追い込まれた。
石破総理は、参院選でも衆院補選でも「裏金議員」を公認し、応援演説に立ってきた。もし小泉流の勝負師であるならば、すでに造反議員を除名し、世論の喝采を浴びていたはずだ。
裏金解散を断行するには、対抗馬となる新人候補を一気にかき集める組織力も不可欠だが、石破総理を支える選対チームは脆弱で、小泉政権の郵政選挙で新人擁立を主導した二階俊博氏や飯島勲秘書官のような辣腕参謀もいない。
結局のところ、裏金解散を阻む最大のハードルは「石破自身の胆力」である。小泉元総理との会談は、総裁選前倒しへの牽制球として有効に働くかもしれない。しかしそれを実際に断行できるかどうかは、石破総理が“小泉純一郎役”を演じ切れるかにかかっている。
小泉劇場の再来はあるか
永田町では、総裁選前倒しが決まる瞬間こそ、石破政権の命運が分かれるとみられている。その時、国民世論を武器に「裏金解散」を断行できれば、石破政権は一転して長期政権への道を切り開く。だが躊躇すれば、退陣へのカウントダウンは止まらない。
「小泉劇場」の再演か、それとも短命政権の幕切れか。鍵を握るのは、石破総理が果たして「勝負師」となれるかどうかである。