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緊急解説・日米首脳会談〜石破はトランプのご機嫌を懸命にとったものの、トランプの眼中に石破はなかった〜対米投資1兆ドルを表明、対米追従外交は加速していく

石破茂首相がトランプ大統領と初めて会う日米首脳会談が終わった。石破首相がトランプ大統領のご機嫌を懸命にとったものの「トランプの眼中に石破なし」が鮮明になった会談だったと言えるだろう。

ポイントは3つ。

①主役はシンゾーだった

②トランプよいしょが際立った

③国会よりも米国が大事

順番に解説していく。

①主役はシンゾー

トランプ大統領は会談冒頭から親密な関係にあった安倍晋三元首相の話を持ち出し「シンゾーは私の親しい友人だった。彼は石破首相をとても尊敬していたと私は聞いている」と語った。安倍氏が石破氏を毛嫌いしていたことを承知のうえでの発言だ。いきなり嫌味を放ち、マウンティングしたのではないか。

しかも石破首相のことは「シゲル」ではなく「イシバ」と呼んだ。初対面なので致し方がないとはいえ、これから自分の言うことを忠実に聞けば「シゲル」と呼んでやっていいといわんばかりの対応だ。

トランプ氏は「日本国民は総理をとても気に入っている」とも語った。昨年秋の総選挙に惨敗して自公与党が過半数を割り、その後の内閣支持率も低迷していることを知らないはずがない。大統領選前に面会した麻生太郎元首相や大統領就任前に夕食会に招待した安倍昭恵夫人から、石破首相の評判は聞いているに違いない。そのうえで「日本国民は総理をとても気に入っている」という痛烈な皮肉を言い放ったと受け止めてよい。

まずは相手を威嚇し、トップ同士の直接ディール(取引)に持ち込んで押し切るトランプ流の交渉術である。

これに対し、石破首相は「安倍昭恵さんを通じて大統領閣下の本をちょうだいした」「そこにはPEACEと書かれていた。非常に感銘を受けた」と応じるほかなかった。昭恵夫人の名前を出さざるを得なかったのである。

②トランプよいしょ

石破首相は共同記者会見で「対米投資1兆ドル(150兆円)」を表明した。巨額の貢物だ。

手始めとして天然ガスの輸入拡大で合意。今後はミサイルや戦闘機をはじめさまざまな米国製品を買わされていくことになろう。

石破首相は日本から米国への投資が「かつてない規模」「日本は過去5年連続で最大の投資国」と強調し、トランプ大統領のご機嫌をうかがった。

なかでも驚いたのは、「今まで何年も何年もほとんど毎日、テレビで見ていたので間近に見ることの感動は格別なものがる」と語ったことだ。

石破首相がキャンディーズのファンだったことは知られているが、まさにアイドルと会ったような言い方だ。とても対等な首脳同士の会話とは思えない。

「トランプ政権誕生で日本企業の投資機運が高まっている」という発言も、実態とかけ離れている。トランプ大統領がカナダやメキシコへの関税強化を表明し、日本企業も警戒感を強めている。日本製鉄によるUSスチール買収計画の中止も日本企業の対米投資を及び腰にさせている。そうした実情を棚上げし、日本企業の対米投資機運が高まっているとトランプ大統領に伝えるのは、間違ったメッセージを送ることになろう。

トランプ大統領は「日本との1000億ドルを超える貿易赤字を解消する」と強気一辺倒だった。記者団から解消できなければ日本も関税を強化するのかと問われ、「イエス」と断言した。

「USスチールは買収ではなく、巨額の投資で合意」「所有権が米国から離れるのは心理的によくない」というトランプ発言も、「日鉄は金だけ出して表に出るな!俺にカッコをつけさせろ!」ということであろう。石破首相がそれに同調したのは、この首脳会談が完全にトランプペースで進んだことを物語っている。

③国会よりアメリカ

首脳会談や共同記者会見からにじんでいたのは、石破首相が日本の国会よりも米国のトランプ大統領を大事にする姿勢だ。

石破首相は国会で野党の追及を「石破構文」でかわしている。理屈や説明から入り、延々と語って答弁時間を稼いだあげく、結論は濁し、論点をぼかして逃げ切る手法だ。

しかしトランプ大統領はこのようなやりとりを最も嫌う。外務省幹部は首脳会談に先立って、石破首相に「結論からシンプルに」とアドバイスを重ねた。石破首相は「ふだんと正反対のことをやればよい」と応じたと報道されている。

国会軽視も甚だしい。国会でこそ、すべての国民にわかりやすく「結論からシンプルに」説明すべきであろう。

しかし、共同記者会見では「石破構文」が飛び出した。やはり本性は隠しきれないものだ。

「防衛費の増額はアメリカに言われてやることではない。日本が日本のためにみずからの責任で決断すべきものだが、同盟国アメリカとの意思疎通は当然必要だ」

日本の防衛費は日本が決めるという当たり前のことをいいながら、米国の意向を十分に踏まえて従うことを暗に認めているのである。実にわかりにくいけれども徹底した対米追従姿勢だ。

石破首相は米メディアから「もしアメリカが日本に関税をかけたら報復関税をかけるのか」と質問され、「仮定のご質問にはお答え致しかねます」が日本の定番の国会答弁だ」と応じた。トランプ大統領は「とても良い答えだ」と突っ込み、現場は笑いに包まれたが、これまた国会軽視の姿勢があからさまである。

立憲民主党、日本維新の会、国民民主党は予算案の修正を求めて石破政権と協議を重ねているが、米国でこのような国会軽視の姿勢を鮮明にされて、おとなしく協議を続けるのだろうか。もっと怒った方がよいだろう。

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