東京都知事選で大躍進した石丸伸二氏が7日の投開票日夜のテレビ番組で、元大阪府知事の橋下徹氏や前明石市長の泉房穂氏が新党を結成すれば参加する可能性を示した。都知事選で既存政党に対する強い不信感が示されるなか、10月にも予想される解散総選挙で新党旗揚げというシナリオは、あながち幻想とはいえない。
石丸発言が飛び出したのは、橋下氏と泉氏が出演していた7日夜のテレビ番組。小池百合子知事や蓮舫氏を無党派層の支持で上回り、蓮舫氏を抜いて2位に躍り出た都知事選の大躍進を受けて、石丸氏は今後の政治活動について「ひとまず政治の業界に身を置く続ける」「国政という選択肢、可能性は存在する」と述べたうえで、「泉さんや橋下さんが新党を立ち上げるとおっしゃる場合には ぜひ一緒に頑張りたいなと思う次第です」と続けたのだ。
石丸氏は選挙後 岸田文雄首相の地盤である衆院広島1区から出馬する可能性にもあえて言及している。都知事選の大躍進を受け、とにかく話題を次々に打ち上げて世論の関心を途切れさせないようにするユーチューブ的戦略といえるだろう。
とはいえ、唐突に見える新党構想をあながち幻想とは切り捨てられない現実がある。
小池知事は裏金事件で自公与党の組織票を固めつつ、裏金事件で批判を浴びる自民党との連携を隠す「ステルス選挙」で逃げ切った。しかし、自民党は同時に行われた都議補選で2勝6敗の惨敗。小池知事と親密な萩生田光一都連会長の地元である八王子でも敗北した。小池パワーで都知事選は勝利したものの、自民党への逆風は収まっていない現実が露呈したのだ。
さらに悲惨なのは立憲民主党だった。党の顔である蓮舫氏を擁立し、共産党とタッグを組んで小池知事に挑んものの、蓋を開けてみると既存政党と一線を画した石丸氏に追い抜かれ3位に。蓮舫氏の得票は、前回参院選の蓮舫氏自身の得票と共産党の山添拓氏の得票の合計とほぼ同じだった。立憲と共産のコア支持層を固めただけで無党派層や若年現役層には完全にそっぽをむかれたのである。
立憲は4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選の4連勝の勢いは完全にストップ、政権交代の機運も一気に萎む様相だ。
4月の衆院3補選は自民党支持層が大量棄権して投票率が伸び悩むなかで立憲が勝利した。今回の都知事選は投票率が5ポイント以上アップした結果、立憲が惨敗。無党派層に見放されており、投票率があがるほど不利になるという深刻な事態が浮き彫りになったのである。
無党派層や若年現役世代の期待を一身に集めたのが石丸氏だった。とりわけ「政治屋の一掃」というキャッチコピーは好評だった。
政治屋とは誰か、どうやって一掃するのかという具体的な内容はまったく示していない。それでも期待感を集めたのは、既存政党や永田町政治に対する有権者の不信感が極限まで高まっていることの証左であろう。ワシントン政治を否定して台頭した米国のトランプ氏と重なり合う。
石丸氏は既存政党と組む可能性について「選択肢としてはありますが、いまその意思はない」と慎重な姿勢を示している。都知事選を通じて既存政党に対する有権者の強い不信感を肌で実感したに違いない。自ら新党を立ち上げる可能性については「その意思は今のところない」と否定している。新党結成には資金も組織も不可欠だ。ひとりではなかなか難しい現実を直視しているといっていい。
橋下氏や泉氏は政界引退後、テレビコメンテーターとして活躍しているが、今回の石丸フィーバーを複雑な思いで眺めているのではないか。既存政党への不信感がふたりの人気を高めてきたが、そのポジションを石丸氏に奪われかねないからだ。
二人とも、仮に自分が都知事選に出馬していたら、石丸氏以上の支持を集めて当選することも可能だったかもしれないという思いがよぎっているのではないだろうか。
そこへ石丸氏から投げかけられた新党結成の誘いは、ふたりにとって迷惑は話ではなかろう。
ふたりに限らず、石丸氏を巻き込む形の新党結成をめざす動きは今後、水面下でうごめく可能性はある。
自民党は9月総裁選で首相を交代させ、支持率を回復させて10月解散総選挙を狙うが、総裁選で誕生した新政権の人気が低迷すれば、窮地に陥る。立憲は都知事選で勢いがストップし、政権交代の機運もしぼみそうだ。
二大政党への不信が根強く、自民党が初めて下野した1993年の政界再編以来の「新党ブーム」が起きる土壌は出来つつある。