日本維新の会が主張してきた旧文通費の見直しに、岸田文雄首相が飛びついた。立憲民主党と維新を分断することで、今後の政治資金規正法改正の与野党協議の主導権を握る狙いがある。内閣支持率が低迷して6月解散が困難になりつつある岸田首相にとって、最後の生き残り策は「野党分断工作」だ。
岸田首相が突然、旧文通費の使い方と公開のあり方について見直す意欲を示したのは、GW外遊先のブラジルでの記者会見だった。
旧文通とは、国会議員に歳費とは別に月100万円支給される領収書不要のお金だ。「第二の給与」と激しく批判される。維新は率先して「領収書公開」「余剰分返納」を行い、それに沿った法改正を主張している。これに対し、立憲民主党は「法改正後に各党そろって実施」との立場だ。維新は立憲との違いをアピールする材料としてきた。
自民党内でも旧文通費の見直しには慎重論が強かった。しかし岸田首相は立憲と維新の分断策として旧文通費に目をつけたようだ。
裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐり、立憲民主党は「政策活動費」「政治資金パーティー」「企業団体献金」の全面廃止を打ち出している。自民党にとっては、この3本柱のほうが旧文通費の見直しよりもはるかにハードルが高い。旧文通費に焦点とあてることで、立憲の改革案から世論の目をそらす狙いもあろう。
維新は立憲から野党第一党を奪う目標を掲げ、反自民よりも反立憲を強調してきた。しかし、大阪万博への批判が高まったことで失速し、立憲を上回っていた政党支持率は下落。一時の躍進の勢いはピタリと止まった。
4月の衆院補選でも「立憲をぶっ潰す」と唱え、立憲への対抗心をむき出しにしたものの、立憲に惨敗。野党第一党争いは立憲に軍配があがり、次の総選挙で野党第一党にのしあがるのはほぼ絶望的な状況である。
そのなかで維新は自公与党への再接近をはじめている。岸田首相の旧文通費での歩み寄りは、渡りに船だ。
維新は関西圏での選挙の強さは維持している。全国政党への脱皮は進まないものの、関西圏では相当な議席を獲得する可能性は高い。関西中心の地域政党へ回帰し、自公の補完勢力として、仮に総選挙で自公過半数割れした場合は議席を補う連立入りを目指すことに活路を見出すことになるのではないか。
一方、立憲は共産党と共闘した衆院3補選に全勝したことで、総選挙に向けて共産党との連携を強化していくことになろう。
立憲と維新は政治資金規正法の改正でも異なる対応となる可能性が高い。岸田首相の野党分断工作はそれにつけ込んだものといっていい。
一方、岸田首相は「政策活動費」の公開も検討する方針に転じた。これは立憲への揺さぶりと言える。
政治資金規正法は、政治家個人が寄付を受けることを禁じているが、例外として政党からの寄付は容認している。政策活動費は政党から政治家個人へ支給される政治資金だ。使途を公開する必要がなく「合法的な裏金」といっていい。二階俊博元幹事長が5年間で50億円の政策活動費を受け取っていたことで、世論の批判が高まった。
立憲は政策活動費の「廃止」を主張している。これに対し、岸田首相は「公開」で歩み寄りたい考えだ。
立憲は与野党協議で歩み寄らず、決裂して内閣府信任案を提出し、解散総選挙を迫る戦略を描いている。この場合も岸田首相は、維新を「公開」で賛成に引き込み、野党を分断する狙いだろう。立憲が野党分断を恐れて「廃止」をあきらめ「公開」で譲歩すれば、世論の批判は立憲にも向かうという思惑もある。
岸田首相の「維新引き込み」に惑わされず、立憲が政治資金規正法の改正協議で妥協しないで原則論を貫けるかどうかが今後の焦点となりそうだ。