日本維新の会の馬場伸幸代表が、次の総選挙で自公与党が過半数割れした場合、「政策実現なら与党入り排除せず」との考えを示した。これに対し、吉村洋文知事は「与党入りは、維新の消滅を意味する」とただちに打ち消した。いったい、維新のなかで何が起きているのか。
馬場代表の発言は5月17日配信のラジオNIKKEIのポッドキャストで飛び出した。次の総選挙で自公与党が過半数割れした場合の対応を問われ、「掲げた政策が実現するかどうかをベースに(連立の)組み合わせ等を考えていきたい」と発言。「かりに連立政権に入ったときにも『この政策がかなわないなら連立を離脱する』と、政策面においてのアクションを起こせば長生きしていける。政策面での実現も、可能性が高まってくる」と続けた。
この発言が報道されると、吉村知事は同日、記者団に「自民とは価値観が違う。与党入りは、維新の消滅を意味する」と明言。馬場代表も翌日に自らのXで「そんな事言ってません。ちゃんと聞いてもらえればわかります」と軌道修正した。
しかし、自民党と連立の可能性をめぐり、馬場代表と吉村知事の姿勢が食い違っているのは明らかだ。馬場代表はこれまでも政策実現のための連立に前向きな発言を重ねている。
維新はこれまで立憲民主党から野党第一党を奪取することを第一の目標に掲げて躍進してきた。反自民よりも反立憲を前面に掲げ「立憲を叩き潰す」(馬場代表)と強調してきた。
しかし、大阪万博への巨額の税金投入が明らかとなり、維新の金看板である「身を切る改革」は色褪せ、一時は立憲を上回っていた政党支持率は下落。4月衆院補選では自民不戦敗の2選挙区(東京15区、長崎3区)で立憲に惨敗し、次の総選挙に向けた野党第一党争いは勝負あったという空気が広がっている。
馬場代表も関西圏以外の小選挙区で勝利するのは難しいと認め、解散総選挙にむけて戦略の抜本的見直しを迫られている。
そこで浮上してきたのは、馬場代表が口にした「自公過半数割れで連立入り」だ。
自民党は維新を取り巻く状況を変化をうけて、早くも誘い水を送っている。
自民党は政治資金規正法の改正をめぐる公明党との協議が決裂し、単独で改正案を提出した。公明党との連立が揺らいでいるのは間違いなく、維新との連携強化を進めることで、公明党を牽制する狙いもある。
まずは維新が訴えてきた旧文通費の見直しを表明し、維新を改正案賛成へ引き込む作戦に出た。さらに立憲や公明が訴える政策活動費の見直しについても、使途の項目だけを公開する案を打ち上げ、維新だけでも引き込もうとしている。
馬場代表の発言は、自民党が接近してきたことを意識してのことだろう。
総選挙で自公与党が過半数割れした場合に議席を補う補完勢力の候補に維新が真っ先に浮上するのは間違いない。馬場代表としては肌の合わない立憲と組むよりも自民との連立に踏み切るのうが抵抗が少ないということなのだろう。
しかし、このような姿勢が前面に出れば総選挙に勝てない。維新を支えてきたのは「反自民・反立憲」票(二大政党への批判票)だからだ。
吉村知事があわてて馬場発言を否定したのも、差し迫る総選挙にむけて「アンチ自民、アンチ立憲」の立場を鮮明にすることが不可欠という立場からだ。
だが、これが選挙目当ての発言と受け止められらば、維新はますます失速する恐れがある。自民と連立することを明確に否定して総選挙に臨むのかどうか、今後の維新の道筋を大きく分ける判断となりそうだ。