日本維新の会・前原誠司共同代表が朝日新聞のインタビューで語った内容が、永田町で密かに注目を集めている。「私は自民と組むのには反対だが、維新としては連立入りするかもしれない」。この率直な発言の裏にある政局の行方を読み解くと、政界再編のシナリオが浮かび上がってくる。
野党3党の分断と、政権の「補強戦略」
現在の国会は、自公与党が過半数を割っており、政権は極めて不安定だ。そのため、自民党としては、参院選後に野党3党——立憲民主党、日本維新の会、国民民主党——のいずれかを連立に引き入れる政界再編を模索している。
この構図には三つのシナリオが存在する。
- 自民・立憲の「増税大連立」
自民党主流派で緊縮財政派である石破茂首相や森山裕幹事長や林芳正官房長官らが主導する形で、同じく緊縮財政派の野田佳彦代表が率いる立憲民主党と組む。参院選で自民党が大敗した場合は、立憲の野田代表を首相に担ぐ案もささやかれている - 自公国連立政権
麻生太郎元首相や茂木敏充前幹事長が主導し、減税派の国民民主党と組む。こちらは国民の玉木雄一郎代表が首相に担がれる可能性もある。 - 自公維連立政権
一見、最も現実的にも思えるが、維新の内部事情や戦略の不透明さゆえに実現は見通せない。
政界再編の3つの道を想定しながら、まずは維新の内情を分析してみよう。
吉村ー前原体制の「両面作戦」
馬場伸幸前代表が昨年の総選挙で惨敗して辞任した後、新代表に就任した吉村洋文・大阪府知事は、「野党第一党奪取」「全国政党化」から戦略を大きく転換。参院選1人区では立憲と候補者を一本化しつつ、国会では石破政権に接近し、予算案への賛成と引き換えに「高校無償化」を実現させた。
石破首相とは盟友関係にある前原氏がその交渉のキーマンだった。
維新はこれにより、野党三党のなかで最も政権寄りの立場に。しかし、予算案に賛成したことで「与党の補完勢力」との批判も浴び、参院選では苦戦が予想されている。
こうした中で前原氏は、「石破首相の商品券スキャンダル」を機に、政権批判を強める路線に舵を切り直している。
「維新は大阪の政党」——前原氏の本音
前原氏は朝日新聞のインタビューで、野党3党が、立憲の野田氏、国民の玉木氏、そして維新の前原氏のいずれかを首相候補として結束して担ぐ可能性は低いとの見方を示したうえで、維新が自公連立に加わる可能性について以下のように語った。
「私は自民と組んだ場合、維新は大阪だけの政党、自民の補完勢力になってしまう気がします。ただ、大阪の政策実現のため、それでいいと判断するかもしれない。そこは私が判断することではありません」
前原氏は維新内部に与党入りの欲求が強いことをひしひしと感じているのだろう。前原氏自身は連立入りに反対しても、彼の党内基盤は極めて弱く、主導権を握る大阪勢が強く希望すれば、維新として連立入りに傾く可能性は十分にあると率直に認めているのだ。
つまり、大阪勢が「連立入り」を決めたら、それを止めることは難しい、というメッセージである。
維新は「牽制カード」でしかない
このインタビューからは「自公維連立」の現実味が高まっているようにみえる。
しかし、私は、それは本命ではないとみている。維新の戦略が極めて不安定で、風向きひとつで方針が変わる体質があるからだ。
自民党はかつて「自自公連立」を経験した。公明党は創価学会に支えられた組織政党で、世論の風向きに影響される度合いが比較的少ないが、当時の自由党は世論に敏感で、連立離脱をちらつかせながら、次々に要求を迫ってきた。挙げ句の果て、交渉が決裂すると、連立を離脱してしまったのである。
今でいえば、連合という支持母体を持つ立憲民主党や国民民主党の方が連立相手としては安定的で、政権運営のパートナーとして好まれる。維新は、やはり風頼みに政党で、計算がつきにくい。連立に迎え入れれば、内部から撹乱される恐れが強いのだ。
あくまで立憲・国民との交渉を有利に進めるための「カード」として使われる可能性が高い。自公維連立は、自民党にとって最も優先度の低いオプションなのである。