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維新が仕掛けた「議員定数削減」トラップ──麻生の早期解散を封じる吉村戦略の全貌

日本維新の会が、またしても政局をひっくり返した。
高市早苗政権の誕生にむけて自民党と連携する条件として突如掲げたのが「議員定数削減」だ。その裏には、麻生太郎が狙ってきた年内の解散総選挙を封じるという、巧妙な戦略が潜んでいる。

維新は当初、「副首都構想」「社会保険料引き下げ」「食料品の消費税ゼロ」「企業団体献金の廃止」といった政策を高市支持の条件に挙げていた。
ところが、自民党との協議が始まるや否や、「政治改革の本質は議員定数削減だ」と主張を一転。「これを飲めば高市さんに投票する」と言い出したのだ。

看板の「身を切る改革」を掲げれば、世論の受けも良く、自民党も消費税や企業献金よりははるかに受け入れやすい。こうして両党の思惑が一致し、「中身より合意ありき」で協議が一気に進んだ。
臨時国会召集前日の10月20日までに自民・維新が合意すれば、維新は21日の首班指名で高市に投票する。
立憲・国民との野党協議を打ち切ったのも、「もう話はついた」ことの裏返しだ。

自民と維新を合わせれば231議席。無所属を取り込めば、第一回投票で過半数に届く。決選投票になっても、共党から参政党まで野党がすべて結集する可能性はゼロに近い。
こうして、高市政権の誕生は事実上確定した。

だが、維新が持ち出した「議員定数削減」は、一筋縄ではいかない。

まずは自民と維新だけでは衆参両院で過半数に届かない。議員定数削減法案を成立させるには、野党の一部の協力が不可欠だ。
吉村代表は「衆院465議席のうち50削減」を掲げるが、比例だけを削減すれば、死活問題となる中小政党の反発は必至。かといって、小選挙区の区割り見直しに手をつければ、制度設計だけで少なくとも数が月はかかるだろう。
12月17日までの臨時国会で法案を通すのは至難の業である。

高市執行部は目先の首班指名を乗り切るため、維新を取り込むしかない。維新案丸呑みでも合意する方針だ。
しかし自民党内では、早くも不満が噴き出している。

ただでさえ、麻生支配の下で小泉・林陣営を冷遇した党執行部人事に反発が強まっている。さらに公明党を連立離脱に追い込んだことで、衆院議員たちは「次の選挙で勝てるのか」と不安に陥っている。
そこへ議員定数削減が降ってわいた。衆院議員たちの落選確率は確実に上がるため、抵抗は避けられない。
自民党内の合意も、野党との協議も、難航必至である。

しかし、維新にとってはむしろ好都合だ。議員定数削減は“時間稼ぎ”としては最高のテーマなのである。
協議が長引けば、解散はその間できない。
つまり、麻生太郎の早期解散構想を封じることができる。

ここに、維新の真の狙いがある。


吉村代表は当初、小泉進次郎政権での連立入りを見込んでいた。
だが、高市の逆転勝利で絵図が崩れ、麻生が公明を切って国民民主との連携を探るなか、維新は焦った。
幸い、国民民主は連合の反対に足を取られ、首班指名で高市支持を打ち出せずに立ち往生。
吉村はすかさず自民と交渉を進め、国民を出し抜いたのだ。

国民民主が立憲との野党協議に縛られている間に、維新は「議員定数削減」で与党入りの口実を作った。
表向きは「議員定数削減をこの秋に成立させる」と言うが、実際は成立を急ぐ気はない。
むしろ法案審議が長引くほど、解散が遠のき、維新にとって都合が良い。

維新はいま衆院35議席の第3党。しかし、今の支持率は国民民主党や参政党に大きく追い抜かれ、次の総選挙では大幅な議席減が避けられない情勢だ。
だからこそ「選挙を先送りし、議席が多くあるうちに、与党の一角としての立場を固めたい」というのが本音だろう。
定数削減法案を盾にすれば、解散を半年でも1年でも先へ延ばせる。
その間に、閣外協力という“安全な距離”から政策実績を積み重ね、連立入りの環境を整えていけばよい。

高市政権は維新に主導権を握られ、解散カードを封印される。
議員定数削減という“正義の衣を着た罠”に、自民党はすっかり絡め取られつつある。

早期解散は幻に終わるのか。
それとも麻生が巻き返すのか。
政局の焦点は、いま「議員定数削減」と「解散総選挙」をめぐる自民と維新の攻防へと移っている。