日本維新の会がついに自民党との連立に踏み切った。
しかし、誰ひとり閣僚を送り込まない「閣外協力」という形だ。
なぜ大臣ポストを蹴ったのか。答えは明快だ。高市早苗政権と心中する気などさらさらない。いつでも逃げ出せるよう、片足だけを政権に突っ込んだのである。
高市氏は初の女性総理となるため、維新を取り込んで首班指名選挙に臨むことにした。だが同時に、政権の中に手強い“大阪の商人”たちを招き入れることになった。それも政権運営に連帯責任を負わない「閣外協力」という中途半端な形である。今後は政権内部からかき回されるリスクを背負ったのだ。
政権の母屋を、維新の巧妙な手練に乗っ取られる可能性すらある。
■議員定数削減という“取引材料”
維新が土壇場で連立の条件に掲げたのが「衆院議員定数の1割削減」だった。465議席のうち比例を50減らす案を、臨時国会(10月21日召集)で法案提出、12月17日までの会期内に成立を目指すという。
当初、維新は「食料品の消費税ゼロ」「企業団体献金の廃止」を求めていた。だが、それらは努力目標に後退。
代わりに、自民党が受け入れやすい「議員定数削減」の一本に絞り込んだ。
それほどまでに、連立の座を確保したかった。国民民主党にそのポジションを奪われるわけにはいかなかったのだ。
この決断の速さこそ、大阪流の商人気質といえよう。
20日に自民と維新が連立合意、翌21日に高市首相が誕生する。自民196議席、維新35議席で計231。無所属議員が数人投票すれば第一回投票で過半数に達する。決選投票に持ち込まれても、野党が統一候補を立てられず、高市政権の成立は確実だ。
■維新のしたたかさと「閣外協力」の意味
高市氏は維新に閣僚ポストを2つ提示したが、維新はこれを拒否。副大臣や政務官も断り、遠藤国対委員長のみを総理補佐官として官邸に送り込む。形式上は政権の連絡・調整役だが、実質は“政権監視役”でもある。
維新は「国会で予算・法案の可決には協力するが、政権運営全体の連帯責任は負わない」という立場をとった。つまり、都合が悪くなればすぐに離脱できる。
高市政権を支えて政局を安定させるためではなく、自らの主張を政権内部からねじ込むための連立。これが“閣外協力”の本質だ。
■過半数に届かぬ脆弱な国会構成
では、連立によって政権は安定するのか。答えはノーだ。
自民+維新でも過半数に2議席足りない。
立憲148、国民35、公明24、れいわ9、共産8、参政3と、野党は乱立しているが、個別法案では全野党が反対に回る可能性は十分にある。
さらに維新内部では分裂の火種がくすぶる。
すでに3議員が9月時点で連立入りの動きに反発して離党。10月に入っても和歌山の林議員が離党届を提出し、広島の空本議員は次期衆院選に無所属で出馬する意向を表明した。大阪中心主義への反発が党内に広がっているのだ。京都の前原誠司氏が率いるグループが集団離党に踏み切る可能性も指摘されている。
せっかくの連立も、維新が分裂すれば過半数はますます遠のき、国会運営は一層不安定化する。
維新は支持率も低迷。大阪以外では選挙で勝てそうになく、議席の上積みも期待できない。
つまり高市政権は、下降線をたどる株を高値でつかまされた格好だ。
■参院は「麻生シナリオ」が崩壊
参院でも過半数割れが続く。自民100、維新19で119議席。過半数に6議席足りない。
麻生太郎氏が本命に据えていたのは、参院で125議席を持つ自民+国民民主の組み合わせだった。だが、その絵図は崩れた。
高市政権はまず、NHK党の斉藤議員を自民会派に引き入れた。次は「チームみらい」の安野議員、そして和歌山の無所属・望月議員の取り込みを狙う。だが、いずれも一筋縄ではいかない。望月議員を取り込めば、裏金問題で離党した世耕弘成氏の復党問題が再燃し、政権の火種にもなりかねない。
議員定数削減法案に立憲・公明は反対だ。最終的には国民民主の協力が不可欠となるだろう。
■玉木の怒りと「麻生vs菅」の暗闘
国民民主党の玉木雄一郎代表は、維新に出し抜かれた。
野党3党協議を進めていた矢先、維新が高市政権と連立合意。玉木氏は自身のYouTubeで「二枚舌だ」「だまされた」と怒りを爆発させた。
実は10月11日、大阪万博で吉村代表に会おうとしたが不在。たまたま遭遇した藤田共同代表と写真を撮った翌日、その藤田氏が高市氏と極秘会談していたのだ。
玉木氏は「企業献金から議論をすり替えた」と批判しつつも、議員定数削減には賛成を表明。「対決より解決」を掲げる以上、何事も反対というわけにはいかないという立場だ。
維新の背後には菅義偉氏、国民の背後には麻生太郎氏。犬猿の仲の両巨頭が、再び水面下で火花を散らす。
高市政権は、彼らの対立のあおりを真正面から受けることになる。
内閣支持率が高くても、議員定数削減を約束した以上、解散は当面封印される。
高市政権の船出は、早くも嵐の中だ。