日本維新の会が自民党との連立に踏み切った。だが、その決断の裏には全国政党としての維新を見限り、地元・大阪の地域政党に立ち返って、大阪の繁栄にすべてを賭けるという驚くべき戦略転換が潜んでいる。
吉村洋文代表はもはや全国政党の夢を追っていない。狙うのは「副首都・大阪」の実現。国のカネを大阪に集中投下させることで、永遠の「維新王国」を築く構想だ。
全国での支持率低下など、もはや気にしない。高市政権に副首都構想をのませ、大阪を政治と経済の両面で東京と並ぶ都市に押し上げる。
究極の「大阪ファースト」。そのためなら国政政党の「日本維新の会」は消えてもいい。地域政党の「大阪維新の会」さえ残ればそれでいい――。維新首脳陣の腹は、そこまで据わっている。
■「議員定数削減」は連立の“口実”にすぎない
連立入りの条件として維新が掲げた「議員定数削減」は、実は政治とカネの問題を棚上げするための煙幕にすぎない。
維新創始者の橋下徹氏が公然と「政治とカネの話題をそらすためだ」と語り、さらに「吉村さんは優先順位をつけるタイプ。議員定数、副首都構想、社会保険料の引き下げ、この3つを実現できれば十分」と擁護した。
確かに維新は当初、「食料品の消費税ゼロ」や「企業団体献金の廃止」を求めていたが、いずれも最終合意では“継続協議”に格下げされた。議員定数削減を表看板にしたのは、高市政権に入り込むための政治的取引材料に過ぎなかったのだ。
しかも定数削減法案は与野党すべてが猛反対する。成立への道筋は難航必至だ。だが、逆にそれがいい。国会をこのテーマ一色にして、政治とカネの問題から目をそらさせ、解散の時期を縛る。維新はその間に副首都構想を一気に進める――これが本当の狙いだ。
■副首都構想で「国のカネ」を大阪へ
大阪万博が終わり、次なる大阪経済の活性化策を求める維新にとって、副首都構想は切り札だ。
高市政権に副首都構想を呑ませれば、都市再開発や交通インフラ投資などで、巨額の国費を大阪に呼び込める。
その恩恵は計り知れない。吉村代表らはそこに賭けた。
維新の連立入りは世論の評判が悪い。政党支持率も上がらないだろう。次の選挙では苦戦必至だ。
馬場伸幸前代表は「我々の政策が実現するなら、党の存続はどうでもいい」とまで言い切った。
音喜多駿元政調会長は「維新は九割方、縮小か消滅する」と語った。彼らはそれを覚悟の上で連立に踏み切ったのだ。
つまり、党の延命よりも大阪の未来を優先する。維新にとっての「国家」とは、もはや「大阪」なのである。
■「地域政党」への回帰宣言
維新は全国政党としての野望をあきらめた。
政権奪取どころか、次の総選挙で大敗することを前提に、「地域政党・大阪維新の会」としての生き残りを目指している。
大阪府知事と大阪市長のポストさえ守り抜けばいい。そのためには、閣僚ポストなど不要だ。むしろ国政の責任を負うと、身動きが取れなくなる。だから「閣外協力」という形式が最も都合がよい。
高市政権にとって維新は、単なる連立パートナーではない。常に裏口から権力中枢に圧力をかけ、大阪の要求を突きつけてくる存在だ。
それでも与党に加えなければ副首都構想は動かない。高市氏は首班指名選挙を乗り越えるため、苦渋の決断で維新を受け入れたのだろう。
■維新壊滅のシナリオと「大阪永続体制」
裏金事件で自民が崩れ、野党再編のうねりが起きた今年、維新は全国で議席を減らし、政党支持率では国民民主と参政党に追い抜かれた。もはや野党第一党をめざすどころか、存在感そのものが薄れている。
このままでは次の衆院選で維新は壊滅する。
そこで吉村代表は決断した――「全国チェーンからの撤退」である。
すでに地方組織では離党が相次ぐ。
九州や北陸を地盤とする衆院議員が次々に維新を去り、広島や和歌山でも離反の動きが広がっている。
神奈川選出の松沢成文参院議員は「なぜ大臣ポストを取らないのか」と批判し、京都の前原誠司氏がいずれ国民民主党からの合流組を率いて集団離党するとの見方も絶えない。
だが、大阪の中枢は動じない。「日本維新の会」が崩れても、「大阪維新の会」が生き残ればよいのだ。
彼らにとって、日本維新の会の“消滅”とは、全国ブランドの看板を下ろすだけの話だ。大阪の地盤が無傷なら、それでいい。
彼らの視界には、すでに「日本」ではなく「大阪」しか映っていない。
■高市政権にとっての「地雷」
全国政党を捨てて大阪に回帰した維新。
その計算高さを侮ると、高市政権は思わぬ形で足をすくわれるだろう。
大阪ファーストの論理で動く維新は、国政全体の安定よりも、自らの地盤拡大を最優先する。
今後、副首都構想をめぐり、国会でも政府内でも衝突が相次ぐだろう。
高市政権は、やっかいな同盟者を抱えた。
その瞬間から、政権の時計は静かに“狂い始めた”のかもしれない。