高市政権が華々しい外交と高支持率でロケットスタートを切った矢先、思わぬ火種が燻り始めた。連立入りしたばかりの日本維新の会で、早くも“お家騒動”が勃発したのである。
発火点は、共産党機関紙「しんぶん赤旗」が報じた藤田文武・維新共同代表の政治資金疑惑だ。維新が掲げてきた「身を切る改革」に真っ向から反する構図――公設秘書が代表を務める会社に対し、ビラ制作費などとして計2100万円を支払っていた。しかも大半が政党交付金と旧文通費、つまり税金だ。
赤旗は「維新の議員の多くはプリントパックに直接発注している。なぜ藤田氏だけが秘書の会社を介在させるのか」と指摘する。秘書はその会社から年間720万円の報酬を得ていた。公金の環流ではないのか。利益供与ではないのか。維新の看板政策が、創業10余年で当の幹部に跳ね返る形になった。
藤田氏は即座に反論し、「適法で実態のある取引だ」と強調した。ビラ配布には百万単位の費用がかかり、地域での情報発信に必要な経費であると言う。さらに赤旗を「プロパガンダ紙」と切り捨て、全面抗戦の姿勢を見せた。ここまでは、よくある政界の“疑惑vs反論”の構図だ。
ところが、この火にガソリンをぶちまけたのが他ならぬ維新創業者・橋下徹氏だった。
Xで藤田氏を名指しで批判し、連日“吊し上げ”を行ったのである。
「利益が出ていたら完全アウト」「利益が出ていなくても維新としてアウト」「公金マネロンの疑い」「選挙を利用した公金着服ビジネス」「維新の根本精神に反する」。
トーンは容赦なく、ついには「ここは赤旗、頼むで!」とまで言い放った。かつて政界を席巻した“劇場型”の猛攻。その矛先が、今や自ら育てた政党に向けられている。
なぜここまで強烈なのか。背景にあるのは、維新内部の権力史と主導権争いだ。
維新は橋下氏と松井一郎氏を軸に、大阪改革を旗印に成長してきた。だが政界引退後、国政に軸を移した馬場伸幸氏の下で、党運営は大阪から東京へ移った。藤田氏はその馬場氏の側近として台頭した人物だ。
橋下氏はこうした“国会議員主導”への反発を募らせていた。
今年の参院選後、吉村洋文代表が藤田氏を共同代表に起用し、馬場-藤田ラインが復権。そこに連立参加という劇的転換も重なった。維新の重心が再び大阪から東京へ移る――そう見た橋下氏が、ここぞとばかりにブレーキを踏んだのである。
つまり今回の“赤旗スクープ”は、維新内抗争の導火線にすぎない。藤田氏の説明もさることながら、橋下vs藤田という構図こそが本丸だ。
藤田氏も一歩も引かない。「誤解を招く構図は改める」としつつ、取引は適法と主張。「創業者から親離れし、自立する」と言い放ち、「考えが合わないことが多い」と突き放した。創業者が現在の共同代表を公開処刑し、その共同代表が“脱・橋下”を宣言する――政党としては異例の緊張状態だ。
その影響は維新内に留まらない。選挙後、離党が相次ぎ、38議席は34に減少。今後も離党ドミノが予見されるなか、連立パートナーの安定性が揺らげば、高市政権の国会運営にも直撃する。せっかくの高支持率と外交成果も、足元が崩れれば意味がない。
政党は、外から壊れるのではない。内側から壊れる。
維新の危機は、まさにその典型例となりつつある。
高市政権にとって、この騒動は単なる“味方の不祥事”ではない。政権の推進力を担う連立の片翼が自壊した瞬間、内閣の飛行軌道も変わる。いま永田町では、胸の内でひそかにこうつぶやく向きが多い。
「橋下徹は、味方にすると心強い。だが、敵に回すと手強い」
藤田氏の疑惑は今後、第三者の検証や政治資金の透明性議論へと進むだろう。だが、この問題の真の焦点は、維新がどこへ向かうのか、そして高市政権がそのリスクをどう管理するのか――政局の地殻変動の入り口にある。
爆心地は大阪か東京か。それとも永田町全体か。
“維新劇場”は、まだ幕が上がったばかりだ。