維新が「連立離脱カード」を振り回している。議員定数削減法案が成立しなければ連立を解消する―鼻息荒くそう迫っているが、実はこの脅しは高市政権にはまったく効いていない。
維新はこれを「伝家の宝刀」だと信じているが、自民党は一向に困らない。むしろ、維新が自ら飛び出してくれることを心待ちにしているフシさえある。維新が離脱した瞬間、高市首相は逆に「伝家の宝刀」を抜いて堂々と解散総選挙に踏み切り、単独過半数の奪還に突き進めるからだ。
維新の離脱カードが完全に無力化している理由を、丁寧に紐解いていきたい。
■維新の「定数削減」は本気の改革ではない
維新が連立合意の柱として掲げた議員定数削減。だが、これは本気で実現したい政策ではない。
そもそも維新は裏金問題で自民党を批判し、企業団体献金の禁止を主張していた。だが自民党がこれだけは絶対に拒否したため、維新は「身を切る改革」の看板として定数削減に切り替えたに過ぎない。
つまり定数削減は、維新が連立入りするための“口実”。世論に説明するために掲げただけで、「必ず今国会で通す」という本気度は微塵もなかった。
とはいえ、一度掲げた旗は下ろせない。そのため、自民との合意では「1年かけて与野党で協議する」「合意できなければ小選挙区25・比例20削減が1年後に自動発動する」という奇妙な条文を盛り込むことになった。
この「自動発動」こそ維新が連立離脱カードを使って自民に押し込んだ仕掛けで、維新はここで“カードの威力”を過大評価してしまった。
■自民党の老獪な読み――法案はそもそも通らない
自民党がこの無茶な条文をすんなり受け入れたのは、法案が今国会で通るはずがないと確信していたからだ。
衆院では維新離党組3人を加えて辛うじて過半数を確保しているが、参院ではいまだ6議席足りない。政治改革特別委員会の委員長は立憲民主党で、審議日程も採決も立憲が握っている。
どこからどう見ても、今国会で成立する目はない。だからこそ自民党は“維新の要求に乗ったふり”をするだけで十分だった。維新は満足し、提出責任は果たし、しかし野党が反対して審議入りしなければ、それで終わりだ。
さらに自民党は、維新と立憲の仲が決定的に悪化することまで織り込んでいる。維新が怒りの矛先を立憲に向ければ、維新が連立を離脱しても、立憲と選挙協力することはないだろう。自民党にとって痛手はなくなるどころか、むしろ好都合だ。
自民党は維新の怒りが外に向かう構図をこっそり喜んでいるのだ。
■馬場前代表の“致命的な勘違い”
維新はこの老獪な政治判断をまったく読み取れていない。馬場前代表は「最初の第一歩である定数削減ができなければ連立離脱」「自民党内の反対で進まないなら高市総理は解散すべき」と発言し、自民は解散を恐れているという前提で攻め込んでいる。
だが現実は真逆だ。
自民党は維新が離脱すれば、むしろ堂々と解散できる。高市政権は支持率が高く、今なら勝てるという確信すらある。維新としては「連立離脱カードを振れば自民は折れる」と考えているが、それは国対政治の裏側を読みきれていないからだ。
自民党は決してこうは言わないが、本音はこうだろう。
――維新さん、そんなに怒るならどうぞ出ていってください。
そしたら“信を問う”として解散できるので。
維新は自民党のこの構図を完全に読み違えている。
■維新は“用済み”、狙いは国民民主の取り込み
そもそも自民が維新と連立したのは、高市早苗が首班指名に勝つためだった。公明との関係が壊れ、国民民主の連立参加も連合の反対で叶わず、最後に残ったのが維新だった。高市政権が発足するまでの“つなぎ”であり、解散権を手に入れた瞬間、維新は「用済み」になった。
麻生副総裁は菅前首相と親しい維新を快く思っていない。むしろ国民民主こそ本命で、国民を引き入れれば参議院でも過半数を取れる。自民にとって、維新が出ていくほうが都合が良いのだ。
永田町では「だまされるほうが悪い」という残酷な論理が生きている。維新が約束破りに激怒して飛び出すなら、それは自民にとって最高の展開となる。
高市政権の支持率は高い。維新が離脱すれば、それを口実に1月解散へ一直線―そして維新は総選挙で壊滅的打撃を受ける可能性がある。
■結論――連立離脱カードは“逆効果”
維新が信じる「伝家の宝刀」は、実は完全に錆びついている。自民党の戦略は、維新の離脱をむしろ歓迎する構図。維新がこれを理解しないまま連立を飛び出せば、それは高市政権の思うつぼとなり、維新自身の自滅につながりかねない。
支持率が高い政権に「解散を打て」と脅すのは、まさに悪手。永田町では、強い側が強いほど強気に出られる。自民党はすでに腹を決めている。維新が離脱すれば、1月解散は現実味を帯びる。
維新の踏み込みが引き金となるのか、それとも土壇場で踏みとどまるのか。今後の永田町は、まさに一挙手一投足が政局を左右する局面に入っている。