政治を斬る!

「約束」をめぐる年末政局――高市総理と吉村代表、決裂か妥協か

「高市さん、約束を守ってよ!」
年の瀬の永田町で、維新の会の吉村洋文代表が追い詰められている。

自民党と維新が結んだ連立合意。その柱に据えられたのが「議員定数削減法案」だ。臨時国会に提出し、成立を目指す――そう明記されたはずの約束が、いま宙に浮いている。

法案は確かに提出された。だが、自民党に成立させる気配はない。
会期末は目前。審議入りのメドすら立たないまま、時間だけが過ぎていく。このままでは、連立入りを決断した吉村代表のメンツは丸潰れだ。

吉村代表は会期延長を求め、上京して高市総理に直談判する構えを見せている。
これは単なる政策論争ではない。「約束とは何か」をめぐる、政治文化の衝突である。

■「提出」と「成立」のズレ

連立合意に基づき、自民党は維新とともに議員定数削減法案を提出した。
内容は極めて異例だ。与野党協議で1年以内に結論が出なければ、衆院定数を「小選挙区25、比例20」削減する仕組みが自動発動する。

野党は猛反発し、自民党内にも反対は根強い。
自民執行部が踏み切ったのは、あくまで連立合意を履行したという「形式」を整えるためだった。

自民党の本音は明白だ。
約束したのは「提出」であって、「成立」は努力目標にすぎない。
少数与党の国会で、こんな危うい法案が通るはずがない。提出して義理を果たせば、それで十分――その程度の認識だった。

維新側も、今国会での成立を本気で期待していたわけではない。
企業団体献金の廃止を自民党に拒まれた以上、連立入りを正当化する「看板」が必要だった。議員定数削減を掲げ、野党が反対すれば「改革を阻む勢力」と批判できる。それでよかった。

ところが、状況は思わぬ方向に転がる。

■吉村代表の揺れと反転

臨時国会の成立が絶望的になる中、吉村代表は一度、トーンを落とした。
「法案を提出したことで、連立合意の約束は守られている」「高市総理は自民をまとめてくれた」――成立見送りを事実上容認する発言を行った。

来年の通常国会で継続審議。連立離脱はしない。
ある意味、当初の想定通りのシナリオだった。

しかし、マスコミはこれを「維新、トーンダウン」と報じ、批判が噴出する。
ここで吉村代表は引けなくなった。

翌日、「結論が出るまで会期を延長すべきだ」「決めない政治は真っ平ごめんだ」と強硬姿勢に転じる。
土壇場で「約束」のハードルを引き上げたのである。

■高市総理と吉村代表、すれ違う出発点

そもそも、この二人は想定外の組み合わせだった。

吉村代表は自民党総裁選で小泉進次郎勝利を確信し、菅義偉元総理の後ろ盾のもと、水面下で連立協議を進めていた。大阪府知事のまま総務大臣として入閣する構想まであった。

しかし、進次郎は敗れ、高市早苗の大逆転。
高市総理の背後にいるのは麻生太郎元総理。菅氏と犬猿の仲で、維新を快く思っていない人物だ。

さらに、国民民主党の連立入りも連合の反対で頓挫し、高市総理は首班指名すら危うくなった。
そこで、維新との連立に舵を切った。昨日の敵は今日の友――永田町では珍しくない光景だ。

■吉村政治の核心、「約束」

吉村代表にとって、政治の核心は「約束」である。

上京直前のテレビ番組で、吉村代表はこう語っていた。
「菅さんは、やると言ったら絶対に約束を破らなかった」
「進次郎さんも、約束を必ず守る人だ」

一方、高市総理については慎重な言い回しに終始した。
これは偶然ではない。約束を守る政治家かどうか――それが吉村代表の最大の関心事なのだ。

企業団体献金の廃止を棚上げし、議員定数削減を掲げる。
この取引は、高市総理との「約束」だった。

だからこそ、採決もせず、うやむやに終わる展開は受け入れられない。
否決でもいい。野党の反対でもいい。
白か黒か、採決で決着をつけたい。それが大阪流の合理主義である。維新が大阪都構想の住民投票で敗れながらもなお投票での決着をあきらめていないのも、その表れだろう。

■文化の衝突、そして年末政局へ

だが現実は厳しい。
審議の舞台である政治改革特別委員会の委員長は立憲民主党。しかも企業団体献金の法案が先に控えている。会期を少し延ばしたところで、成立の見通しは立たない。

永田町の「先送り文化」と、大阪の「決着主義」。
その違いが、年末政局で露わになった。

吉村代表が上京し、会期延長をゴリ押しするのか。
高市総理が折れ、混乱の年末国会に突入するのか。

「約束」は守られるのか。
高市・吉村会談が、政局の分岐点となる。