与野党の話し合いで物事を決める国会――その風景は、いま確実に過去のものになりつつある。4月以降の国会を支配するのは、合意形成ではなく「数の力」だ。そして、その力を最も強く握るのが、高市政権である。
総選挙で圧勝した与党は、衆院で4分の3の議席を占める。実際、新年度予算案はその圧倒的多数を背景に強行採決された。しかし、その勢いは参院で止まった。与党は過半数を割り込み、高市首相が執念を見せた「年度内成立」は実現できず、暫定予算へと追い込まれた。
この過程で浮かび上がったのは、野党の無力さと同時に、もう一つの現実だ。高市政権にとって最大の壁は野党ではない。自民党そのものなのである。
今回の予算審議で、野党各党は軒並み反対に回った。かつて補正予算に賛成した国民民主党も距離を取り、参政党や「チームみらい」も対決姿勢を鮮明にした。結果として、与党とそれ以外という明確な対立軸が形成された。もはや政策ごとに協議し修正する時代ではない。与党が押し切り、野党が対抗する構図が固定化したのである。
こうした状況のなかで、高市首相が頼るのが、連立パートナーの日本維新の会だ。吉村洋文代表との間で、「今国会成立」を目指す3つの法案で合意した。①衆院定数の1割削減、②副首都構想、③日本国旗損壊罪の創設である。
注目すべきは、これらが単なる政策課題ではない点だ。高市首相にとっては、自民党内の反対を押し切るための「テコ」としての意味を持つ。
形式上、自民党は単独で衆院3分の2を確保しており、維新の協力がなくても法案は成立させられる。それでもなお維新との連携を強めるのは、党内基盤の弱さを補うためだ。
高市首相は1月の解散を麻生太郎副総裁に無断で決断し、その後の人事でも対立を深めた。党本部では麻生が影響力を維持し、幹事長の鈴木俊一、総務会長の有村治子らが支える体制が残る。外務大臣の茂木敏充、国対委員長の梶山弘志らも含め、党内の中枢は必ずしも高市一色ではない。
つまり高市首相は、衆院では圧倒的多数を持ちながら、党内では「少数派」に近い立場に置かれている。この矛盾を解消するために、維新との連立合意を既成事実化し、「外圧」で党内を抑え込む――これが現在の戦略である。
その試金石が、3つの法案だ。なかでも最大の焦点は、衆院定数削減である。維新は比例代表45削減を主張している。これが実現すれば、比例依存度の高い野党に壊滅的打撃を与える一方、自民党の影響は限定的だ。
昨年末の段階では、国民民主党との連携を見据え、「小選挙区25、比例20」というバランス案だった。しかし、今回の予算をめぐる対立でその配慮は不要となった。比例削減一本に舵を切る可能性が高まっている。
ただし、この案は党内でも波紋を広げる。小選挙区に手を付けない方が現職議員にとっては安全だが、「維新主導で制度が決まる」ことへの反発は強い。定数削減そのものよりも、高市主導の政局運営に対する拒否感が焦点となりかねない。
維新が最も重視するのは、副首都構想である。大阪を副首都として位置づけ、国家機能の一部を移転する。これは単なる制度改革ではなく、巨額の予算配分を伴う「実利」の政策だ。他党の支持は乏しいが、高市首相にとっては維新をつなぎ止めるための重要なカードとなる。
一方、日本国旗損壊罪は、高市首相の持論に近い政策だ。外国国旗には損壊罪がある一方、自国旗にはないという不均衡を是正するという論理だが、表現の自由との関係で憲法上の問題も指摘される。自民党内でも慎重論は根強く、理念法にとどめる案も浮上している。
結局のところ、これら3法案の本質は政策の是非だけではない。「高市・維新連合」が主導権を握るのか、それとも自民党内がこれに歯止めをかけるのか。その力関係のせめぎ合いである。
衆院ではすでに「数の力」が支配している。しかし、その数をどう使うかをめぐって、政権内部の対立はむしろ激しさを増している。後半国会の主戦場は、野党との攻防ではない。自民党の内側にこそある。