公明党がついに牙をむいた。
これまで自民党との連立離脱後も「与野党と一線を画す」と慎重姿勢を崩さなかった斉藤鉄夫代表が、首班指名で「玉木雄一郎」と書く可能性を示唆したのだ。
立憲、維新、国民、公明が結束すれば、衆院過半数を超える。高市早苗新総裁は首班指名で敗れ、自民党はまさかの野党転落――。そんな衝撃シナリオが現実味を帯びてきた。
だが、政治はそこまで単純ではない。
公明が野党と組んでも、鍵を握るのは維新と国民。この2党は互いを立憲に押しつけ、自分は自民党に近づこうという“トラップ合戦”を繰り広げているのだ。
■ 麻生独裁が公明を追い出した
公明党の豹変には明確な理由がある。麻生太郎副総裁を中心とする「麻生独裁」の自民党が、連立継続にまったく未練を見せなかったからだ。
公明が長年支援してきた小選挙区に、自民党が候補者をぶつける検討に入った――この報道が決定的だった。
公明党の西田幹事長は、高市が総裁選で逆転勝利した直後の面会で、公明党が「政治とカネ」など三つの懸念を伝え、「解消なくして連立なし」と明言したにもかかわらず、その後1週間、自民党からは一切の打診がなかったと暴露した。
つまり、自民党は公明党を追い出す気マンマンだったのである。
それでも斉藤代表は当初、首班指名の決選投票では「棄権」か「斉藤鉄夫」と書くと述べていた。ところが10月13日のBS番組では、「野党党首の名前を書くのもあり得る」との考えを示し、明確に転じた。
麻生政権下の“公明排除路線”に、公明党が反旗を翻した瞬間である。
■ 玉木雄一郎に舞い降りた「総理のチャンス」
もし公明党が野党側に回れば、立憲148、維新35、国民27、公明24。合わせて234票、過半数を1票上回る。
立憲の野田佳彦代表は早くから、野党が一枚岩になるために国民民主の玉木雄一郎代表を首班候補に推してきた。
だが玉木は簡単に乗らない。麻生太郎と気脈を通じる榛葉賀津也幹事長との関係もあり、「立憲とは安保・原発政策で一致できない」と距離を置く。政策の違いを口実にしているが、実際には“立憲との共闘を避けるための方便”でもある。
それでも公明の豹変で状況は一変した。
立憲・維新・国民・公明が玉木を担げば、首班指名に勝てる。総理大臣の座が手の届くところにあるのだ。
立憲支持層から「やる気がない」と挑発され、玉木は「総理を務める覚悟はある」と言い返している。
だが、玉木の“本気”は野党共闘による総理ではなく、「自民との連立による総理」である。
■ 維新の狙いは「国民を罠にはめる」
維新はさらに狡猾だ。自民と維新を合わせると231議席、あと2人を取り込めば過半数。無所属を引き込めば政権を維持できる計算だ。
一方、立憲・国民・公明を足しても199。れいわや共産など少数野党が乗る保証もない。
維新は「立憲と国民が合意すれば、話を聞く」と言うが、「加わる」とは言っていない。
狙いは明白だ。まず国民を立憲に結びつけ、麻生と国民の信頼を壊す。高市政権が首班指名で不利になるよう追い込み、土壇場で自民に歩み寄り、高市に投票する。
これで維新は「自民政権を救った救世主」として高値で与党入りを勝ち取る。
そのためには玉木を“立憲の罠”に引きずり込む必要がある。だからこそ維新は「立憲・国民合意」を煽っているのだ。
一方の玉木も、そんな維新の策略を警戒している。だから踏み出せない。
■ 「4党連合」は幻、やはり高市政権が本命
結局、維新も国民も「自民との連立入り」を最終目標にしている。
公明党が立憲に寄れば寄るほど、自分たちを自民に高く売りつけられる。麻生が最初から読んでいた構図だ。
最終的に4党連合(立憲・維新・国民・公明)はまとまらず、どちらかが土壇場で自民に寝返る。
高市政権が誕生する可能性は、依然として最も高い。
ただし、自民は少数与党にとどまる見通し。麻生は早晩「解散総選挙」に打って出て、自民単独過半数の奪還を狙うだろう。
参院では自民と維新では過半数に届かないが、国民を加えれば過半数を超える。麻生の本命が国民民主である理由は、榛葉幹事長との関係だけでなく、この「参院計算」も背景にある。
国民には“次のチャンス”がある。
維新には“今しかない”。
両者の騙し合いは、首班指名の当日まで続くだろう。