自民党が裏金事件で批判を浴び、最も漁夫の利を得たのは、野党第一党の立憲民主党である。政党支持率の低迷にあえいでいたが、一転して4月28日投開票の衆院3補選は全勝との観測が広がっている。
与党と野党がたったひとつの議席を争う小選挙区制度のもとでは、野党第一党は極めて有利となる。有権者は二者択一の選択を迫られるため、与党第一党の自民党への批判が高まれば、「よりマシな」野党第一党を相対的に選ぶ傾向が強まるからだ。
小選挙区制度は野党第一党を制度的に後押しして、政権交代を起こりやすくする制度といっていい。野党第二党以下は宿命的に苦しい戦いを強いられる。
野党第一党の立憲民主党とどう向き合えばよいのか。選挙で共闘するのか、独自路線を貫くのか。
自民党が不戦敗を決めた4月28日投開票の衆院東京15区補選は、日本維新の会やれいわ新選組が抱える難題を浮き彫りにした。
🔸維新
維新は次の衆院選で「野党第一党の奪取」と「自公与党の過半数割れ」の二つの目標を掲げている。
当初は「野党第一党の奪取」だけだった。打倒自民よりも打倒立憲を優先し、まずは野党第一党の座を奪い取って、その後に自民党と対峙するという道筋を打ち出していた。
これに対し「維新は自公与党の補完勢力だ」という批判がリベラル勢力から強く展開された。確かにその側面は否めない。
しかし、野党第二党が小選挙区制度のもとで「まずは野党第一党を奪う」のは戦略的には正しい。野党第二党のままでは、制度的に常に不利な立場に立たされ、ジリ貧になるからだ。
民主党も当初は野党第二党だった。野党第一党の新進党が自滅して解党し、散り散りになった国会議員たちをかき集めて野党第一党に躍り出たのである。そしてはじめて自民党と互角に戦うに至り、2009年についに政権交代を実現させたのだ。
こうして野党第一党争いは熾烈を極める。自民党はそこに乗じて野党分断工作を展開し、どちらも生かさず殺さずに競わせることで政権批判票を分散させ、政権を維持しているのだ。
今回の衆院補選は自民党が3選挙区のうち2つ(東京15区、長崎3区)で不戦敗となり、立憲vs維新の野党第一党争いが露骨に展開される事態となった。維新の馬場伸幸代表「立憲を叩き潰す」「立憲に投票しないで」と連呼し、対決姿勢をむき出しにしたのである。
しかし、本番の衆院選では自民党は候補者を擁立してくる。立憲vs維新が全国各地で衝突すれば、自民党が漁夫の利を得るのは間違いない。
維新創始者の橋下徹氏は東京15区補選を立憲と維新の「予備選」と位置付け、「今回の補選で負けた方は本番の衆院選に出馬するな」と主張している。
立憲と維新が政策合意したり選挙協力したりする必要はないが、共倒れを防ぐためには候補者調整が不可欠であり、予備選を実施して候補者を絞り込むべきだというのが橋下氏の持論だ。
しかし、具体的な予備選の手法をめぐっては思惑が交錯し、実現のハードルは高い。そこで今回の補選を「予備選」と位置付け、「ここで負けた方は次の衆院選には出馬しない」という実例をつくってしまおうという提案である。
だが、維新からはこれに乗る声は聞こえてこない。橋下氏の声を黙殺している。打倒自民よりも打倒立憲に傾く馬場代表にすれば、橋下氏は口うるさいOBとなりつつあるのだろう。
立憲とどう向き合うかは、失速した維新にとって、今後の路線を大きく左右する難題だ。
🔸れいわ
れいわ新選組は、立憲民主党の経済政策(緊縮財政)や国会対応(批判より提案)を激しく批判し、野党共闘から一線を画して独自路線をとってきた。国会では立憲の国会対策を「茶番」と批判した櫛渕万里共同代表に対して立憲を含む与野党が懲罰動機を提出し、最終的には登院停止10日の処分を受けた経緯もある。れいわは国会での共闘ばかりか、選挙協力にも慎重な姿勢をみせてきた。
だが、解散総選挙が迫る中、櫛渕氏が立憲候補と競合する東京22区から立憲候補が不在の東京14区へ鞍替えし、立憲は14区に候補者を擁立しないバーターが成立。立憲と政策合意や選挙での相互支援には踏み込まないものの、共倒れを防ぐための候補者調整には応じる方針に転換したのである。
比例区だけではなく小選挙区でも議席獲得を目指すには、野党第一党の立憲との間で経済政策での違いを棚上げした「戦略的な候補者調整」は不可欠であるという判断だ。
これを受け、れいわは東京15区補選にも独自候補擁立を見送った。山本太郎代表と親しく、山本代表が都知事選に出馬した際も応援し、消費税減税を唱えて立憲民主党を離党した前参院議員が無所属で出馬したが、党としては推薦せず、中立的な立場で東京15区補選に臨んだのである。
ところが、櫛渕氏は告示日に「個人」の立場で立憲候補の第一声に参加。立憲の蓮舫氏や共産の田村智子委員長と並んでマイクを握り、野党共闘をアピールした。
立憲候補の応援に駆けつけ、蓮舫氏らと並んでマイクを握るのは、「戦略的な候補者調整」から一歩踏み出す政治行動といっていい。共同代表である櫛渕氏の行動は「れいわは立憲候補を支持している」との印象を広げ、れいわ支持者に混乱を招いた。立憲を含む与野党から懲罰動議を突きつけられた櫛渕氏が、立憲幹部と並んで街頭に立つ姿に戸惑いを感じる支持者は少なくなかっただろう。
櫛渕氏としては、自らの東京14区で立憲や野党共闘支持層の応援を受けるため、隣の東京15区補選でも野党共闘の輪に加わりたいという思いに違いない。だがいくら「個人」の立場といっても、共同代表である以上、党の姿勢を示すものを受け取られるのは当然だ。
れいわ支持層の反発を意識したのか、山本代表は選挙戦終盤、消費税減税を訴える無所属の前参院議員とともに街頭演説に立った。そこでこの無所属候補が当初は野党統一候補の打診を受けながら、立憲とは経済政策が異なることを理由に固辞したことを暴露。れいわは経済政策を重視しており、山本代表個人としては彼を応援する姿勢を鮮明にしたのである。
れいわは立憲と共倒れを防ぐことに目的を絞った候補者調整は進めるものの、経済政策や国会対応で妥協する考えは毛頭なく、選挙協力には踏み込まないという立場を改めて明確にしたといっていい。
とはいえ、共同代表の櫛渕氏が立憲の幹部や候補と並んでマイクを握ったことは、基本路線をあいまいにした面は否めない。本番の衆院選にむけて立憲とどう向き合っていくのか、維新と同様の難題を抱えたといえる。