石破茂総理の退陣表明で、自民党はポスト石破をめぐる総裁選に突入した。本命として急浮上しているのは小泉進次郎農水相である。
その進次郎と蜜月関係にあるのが、日本維新の会の吉村洋文代表だ。もし進次郎政権が誕生すれば、維新の連立入りは既定路線とみられる。大阪府知事のまま吉村代表が総務大臣として入閣するプランまで浮上している。
だが、その一方で維新の衆院議員3人が連立入りに反発し、離党届を提出する動きも出た。維新は不祥事も相次いでおり、連立参加は政権を内側から揺さぶる火薬庫になりかねない。
進次郎の前に立ちはだかるのは「維新リスク」である。
世代交代を象徴する進次郎と吉村
小泉進次郎44歳、吉村洋文50歳。石破総理68歳の退場で、この二人が政権中枢に立てば、日本政治は一気に世代交代の時代を迎える。
国民民主の玉木雄一郎56歳、参政党の神谷宗幣47歳、れいわの山本太郎50歳ら新興勢力の顔ぶれとも並び、政治の舞台が一段と若返ることは間違いない。
両者の関係の背後にいるのが菅義偉元総理だ。進次郎の後見人である菅は、石破退陣を迫る場面でも同行し、最後の一押しを託した。一方で吉村にとっても菅は「政治の師」であり、維新創設期から橋下徹氏や松井一郎氏を通じて強固な関係を築いてきた。
菅政権下の兵庫県知事選では、維新が擁立した斎藤元彦氏を自民党本部が推薦し、勝利に導いた経緯がある。大阪を副首都とする構想を掲げる維新と、自民党本部を結びつけたのも菅だった。もし自公維連立が成立すれば、菅は再びキングメーカーとして君臨するだろう。
維新連立構想の現実味
維新は昨年の衆院選で惨敗し、馬場伸幸代表が辞任。吉村が代表に就任し、前原誠司氏を共同代表に迎えた。だが今年の参院選でも敗北し、前原が退き、代わって藤田文武元幹事長が共同代表に就いた。吉村と馬場の対立は表面上収束し、党内では挙党一致を演出している。
こうした中で浮上しているのが「進次郎政権との連立」だ。石破政権との協力は否定してきた維新だが、大阪を副首都とする構想を条件に、次期政権との連立には前向き姿勢を隠さない。自民党にとっても、大阪は維新に譲り、それ以外では選挙協力を受けることで合理的な棲み分けが可能になる。
維新が加われば、与党は衆参で過半数を回復し、国会運営は一気に安定する。これまで石破政権が立憲や国民と個別交渉を繰り返してきた苦労は不要になり、法案は自公維3党で合意すれば数の力で可決できる。だが同時に、野党の声は排除され、国民民主党などは存在感を失うことになる。
二つの火種 内部対立と公明との確執
自公維連立は安定どころか、二つのリスクを抱える。ひとつは維新内部の対立である。橋下徹氏は吉村を現職知事のまま総務相に起用すべきだと主張する。だが馬場前代表や藤田共同代表らは、自らの入閣を望む。吉村入閣は支持率向上の切り札となり得るが、同時に党内不満を噴出させるだろう。
もうひとつは公明党との確執である。かつては大阪の選挙区で棲み分けていたが、昨年の衆院選では全面対決となり、公明全敗、維新全勝という結果に終わった。
公明は維新との連立に不信感を抱き続けているが、右派色の強い高市政権阻止のため、進次郎との連立を容認せざるを得ない状況だ。だが、大阪での選挙協力や個別政策で両党が衝突する場面は必至であり、政権のアキレス腱となる。
維新分裂と不祥事の火薬庫
さらに危険なのは維新分裂の兆候だ。
9月8日、維新の衆院議員3人が連立入りに反発して離党届を提出し、新会派結成を模索している。彼らの背後には前原誠司の影がちらつく。筋金入りの二大政党論者である前原が非主流派を率い、新党を結成する可能性も否定できない。
維新を加える目的は与党の安定多数確保にある。しかし維新が分裂すれば、むしろ国会運営の不安定要因になる。
加えて、維新は不祥事が相次いでいる。つい最近も石井章参院議員が秘書給与詐取事件で議員辞職に追い込まれた。もし連立入りすれば、こうした不祥事が政権全体を直撃するスキャンダルに発展しかねない。
小泉進次郎はポスト石破の最有力候補として注目を集めている。しかし、彼の前に広がるのは「維新リスク」という地雷原だ。
蜜月関係にある吉村洋文との連立は、世代交代の象徴として国民に新鮮な印象を与えるだろう。だが、維新内部の対立や公明との不和、そして相次ぐ不祥事が、政権を内側から揺るがす火種となる。
「挙党一致」を掲げる進次郎の総裁選において、維新との距離感は最大の争点になるに違いない。
果たして維新との連立は、自民党再生の起爆剤となるのか。それとも新政権を吹き飛ばす爆薬となるのか。
日本政治は再び、大きな岐路に立っている。