自民党が政治資金規正法の改正案を今国会に単独提出した。公明党との協議が決裂し、国会の場で公明を含む与野党で修正協議を進めることになったのだ。
自公連立政権が発足して25年。自公与党協議で法案を決定した後に国会に提出するのが原則である。自民単独提出は極めて異例だ。
立憲民主党の安住淳穀田委員長は「自民党が単独で法案を出して、ぶっつけ勝負でやるのは、この25年で初めてじゃないか」と語った。
私が朝日新聞政治部に着任したのは自公連立政権が発足した1999年である。以来、永田町をずっとウォッチしてきたが、私も自民単独提出は記憶がない。
自公連立政権が大きく揺らぐ事態といってよいだろう。
なぜこのようなことが起きたのか。
これまで20万円超だっった政治資金パーティー券の購入者の公開基準をめぐり、公明党は5万円超を主張しているのに対し、自民党は10万円超で譲っていない。政策活動費の公開のあり方についても「項目」の公開にとどめる自民党に公明党は反発している。改正案の中身について隔たりが大きいことが理由である。
しかし、それらは表面的な理由だ。その程度の政策調整なら、これまで自公両党は何度も乗り越えてきた。
今回は、公明党がそもそも自民党と合意したくないのである。裏金事件の大逆風を受ける自民党と、一緒に見られたくないのだ。
しかも、内閣支持率が低迷して国民に不人気の岸田政権を支える気持ちを失っていることもある。岸田首相が9月の総裁選を乗り切るため、先手を打って6月解散を断行することにも断固反対だ。9月の総裁選で新しい首相に差し替え、その直後に解散総選挙を行うのが公明党の強い要望だ。
しかも岸田政権の主流派である麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長とはソリがあわない。公明党はむしろ非主流派のドンである菅義偉前首相や次の総選挙に不出馬を表明した二階俊博元幹事長と密接な関係を築いてきた。菅氏や二階氏に頼まれたのならまだしも、裏金事件の大逆風に苦しむ岸田、麻生、茂木の主流派ラインに手を貸して裏金批判に巻き込まれるのはまっぴら御免なのだ。
公明党が政策の開きがある自民党と連立を維持してきたのは、政権与党だからである。世論調査では政権交代を求める声が高まり、次の総選挙で自公過半数割れの予測が広がるなか、自民党と一緒に下野するつもりはないのだろう。その場合は立憲民主党など野党との連携も視野に入れ始めた可能性がある。
一方、自民党は公明を牽制するため、維新との連携に動き出した。維新の金看板である旧文通費の見直しを表明し、公明に対して「公明と連立解消しても維新と連立すれば政権は維持できる」とプレッシャーをかけているのだ。
維新は本拠地・大阪で公明と「談合」してきた。府政や市政で協力を得るかわりに、公明現職のいる衆院選挙区への候補者擁立を見送ってきたのだ。ところが、府議会でも市議会でも単独過半数を得たため、公明の協力は不要になった。そこで次の総選挙からは「談合」を解消し、公明現職のいる衆院選挙区にも候補者を擁立することに転じたのだ。
これにより、維新と公明の関係は冷え切った。府議会はこれまで第一党の維新が議長を、第二党の公明が副議長を占めてきたが、維新は副議長ポストを自民に与え、公明を外した。公明よりも自民との連携を強めていく姿勢を鮮明にしたのである。
自民党は裏金事件で猛烈な批判を浴びている。公明党は創価学会の高齢化で組織力にかげりがみられる。維新は大阪万博で失速して躍進はとまり、立憲との野党第一党争いは敗北の様相だ。落ち目の3党が政治資金規正法の改正をめぐり、相互に牽制し合っている様子は、今の国会の閉塞感を映し出しているといえよう。