岸田文雄首相が内閣支持率の続落を受けて立憲民主党との大連立を視野に入れた「自公立維」４党協調体制に舵を切ったことを受けて、岸田首相率いる首相官邸と自民党執行部の間の亀裂が深まっている。
リベラルの伝統を持つ老舗派閥・宏池会（岸田派）や岸田政権で復権した財務省には立憲と大連立を視野に連携を深めることで最大派閥・清和会を分裂・弱体化に追い込む思惑が見え隠れし、これに対する警戒感が募っているようだ。
岸田文雄首相が死刑制度に関する失言で批判を浴びた岸田派の葉梨康弘法相をいったん続投させようとしながら一転して更迭する決断に追い込まれたのは、自民党内で菅義偉前首相ら非主流派だけではなく、岸田政権を支える立場にある執行部内にも「岸田離れ」が進んでいることを物語っている。
４党体制強化を露骨にサボタージュしているのは、第２派閥・茂木派（５４人）を率いる茂木敏充幹事長だ。
そもそもは岸田政権の後見人である麻生太郎副総裁に接近して幹事長に起用された。本人は「ポスト岸田」の一番手だと思っている。
ところが岸田首相が立憲民主党に急接近し、大連立で野田佳彦元首相を担ぐ構想が宏池会の流れを汲む第３派閥・麻生派（５１人）や第４派閥・岸田派（宏池会・４３人）、財務省の一部で浮上。茂木氏にとってこれは実に迷惑な話で、岸田首相や麻生副総裁との距離は開いている。
本来は幹事長として４党体制強化を進める立場にあるのだが、統一教会の被害者救済法案をめぐる４党協議も積極的にまとめるそぶりをみせず、岸田首相も苛立ちを強めている。
次に岸田官邸と距離を置いているのは、清和会の安倍後継レースで先頭を走る萩生田光一政調会長だ。
今国会に提出する大型補正予算をめぐっても、岸田官邸や財務省が予定していた２５兆円規模に反発し、増額を迫って２９兆円まで膨らませた。岸田首相との交渉経緯をあえて自民党の会議で暴露し、対決姿勢をアピールしたのである。
萩生田氏は統一教会との濃密な関係を指摘されてきたが、岸田首相は萩生田氏に被害者救済法案の党内調整を指示した。これは萩生田氏に統一教会と関係を持つ議員が多い清和会を抑え込む役割を担わせ、清和会分裂を誘発する狙いがあるとみられる。
これに対して、萩生田氏は国会で立憲から統一教会との関係を追及され、最後は岸田首相に更迭された山際大志郎・前経済再生大臣を、退任直後に自民党コロナ対策本部長に起用することで意趣返しした。
この人事は萩生田氏が独断で決定し、岸田首相が激怒したと報じられている。萩生田氏は意に介さず「旧統一教会に関わる国会答弁などで国会運営に支障を来すという理由で大臣を辞任したが、新型コロナ対策での失政があったわけではない。今までの知見を生かして仕事してもらおうと、私の判断で指名した」と明言した。
清和会から森喜朗元首相の推しで国会対策委員長に起用された高木毅氏の働きぶりにも岸田官邸は不満を募らせる。
１１月８日には立憲民主党の安住淳・国対委員長が要請した国対委員長会談を拒否し、安住氏を怒らせた。どんなに与野党が激突しているさなかでも、与党の国対委員長が与野党交渉の舞台である国対委員長会談を拒否するという話は聞いたことがない。
さすがに高木氏は翌日に安住氏に謝罪。官邸から松野博一官房長官も駆けつけて安住氏に謝罪して収めたが、安住氏は「残念ながら、今後は官邸側と話をすることになる可能性が高い」と応じた。
高木氏は清和会の一員として立憲との連携に後ろ向きなのだろうが、国対委員長会談の拒否はかえって立憲民主党が自民党を通さずに岸田官邸と直接交渉する口実を与えたともいえる。
幹事長、政調会長、国対委員長というのは執行部のまさに中枢ライン。それがいずれも岸田首相と距離を置き、首相官邸や総裁派閥・岸田派が進める立憲との連携にブレーキをかけるというのが、いまの自民党内政局の最前線である。
自民党と連立を組む公明党も岸田官邸と立憲の急接近は面白くなく、自公立維４党協議でも「立憲vs公明」の対立が激化。立憲の岡田克也幹事長が与野党党首会談を呼びかけると、公明党の山口那津男代表が真っ先に反対して対決機運を強めている。
菅義偉前首相ら自民党非主流派も岸田官邸が立憲との連携で政権基盤を立て直そうとする動きには神経を尖らせる。今後、公明党と連携しながら自公立維４党体制を妨害していくことになるだろう。
公明党や非主流派の動きに茂木幹事長や萩生田政調会長ら自民党執行部が同調すれば、岸田政権は一気に危機に陥る。立憲との大連立をちらつかせて自民党内の反発を牽制して抑え込めるか、それとも岸田首相が引きずり下ろされる展開になるのか、あるいは対立が抜き差しならなくなって大連立ー政界再編というダイナミックな政局へ発展していくのか。国会は視界不良の激動期を迎えようとしている。
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