自民党が大揺れの中で通常国会が始まった。
自民党の安倍派と二階派に加えて岸田派も裏金事件で立件されたことを受け、岸田文雄首相が「派閥解消」を訴えて捨て身の反撃で繰り出した岸田派解散。二階派、安倍派、森山派が続いて解散を決め、自民党は派閥解散組vs派閥存続組(麻生派、茂木派)の対決構図が強まっている。
派閥解消に世論の関心を引き寄せ、政治資金の透明化という核心の問題から目をそらす岸田首相の狙いはこれまでのところ成功したといっていい。
さらに、内閣支持率が低迷する岸田首相では今年の自民党総裁選に勝てないとみて3月退陣を迫る麻生太郎副総裁を中心とした麻生・茂木・岸田の主流3派体制に終止符を打ち、派閥解消を唱える菅義偉前首相と麻生氏を天秤にかけて1日でも長く政権を延命する岸田首相の戦略も見えてきた。
麻生氏は①岸田首相の国賓待遇の訪米を3月上旬に設定し、3月下旬の予算成立とあわせて花道として退陣させる②緊急の総裁選を実施して茂木敏充幹事長を擁立し、主流3派主導の多数派工作で勝利する③4月に新内閣が発足してただちに解散総選挙を断行し、衆院補選が予定されている4月28日の投開票とするーーというシナリオを描いていたが、岸田首相が仕掛けた派閥解消論議で吹っ飛んだ。訪米は4月10日に決まり、3月退陣の可能性は消滅したといえるだろう。
逆に麻生派と茂木派は派閥離脱議員が相次いで追い詰められている。
とりわけ茂木派(平成研究会)は、かつて派閥を率いた小渕恵三元首相の娘である小渕優子選対委員長に加え、参院のドンと言われた青木幹雄元官房長官の長男である青木一彦参院議員らが相次いで派閥を離脱し、茂木氏の求心力は低下。参院を中心に茂木派に大きな影響力を残してきた青木幹雄氏はもともと小渕優子氏を溺愛して茂木氏を敬遠しており、参院を中心に反茂木の動きが一気に噴き出してきた格好だ。
麻生派でも麻生氏と長年行動をともにしてきた岩屋毅衆院議員が離脱。麻生氏との関係がぎくしゃくしている河野太郎氏の去就に注目が集まっている。
一転して窮地に立った麻生・茂木両氏が反撃の一手として繰り出したのが、立件を免れた安倍派幹部たちに自発的離党を促す強硬手段だった。
対象となるのは、安倍派座長の塩谷立氏、事務総長を歴任した下村博文氏、松野博一前官房長官、西村康稔前経産相、高木毅前国対委員長、そして参院幹事長だった世耕弘成氏と政調会長だった萩生田光一氏の7人だ。
茂木幹事長は安倍派幹部たちに対し「自ら政治的けじめをつけるように」と促し、応じなければ離党勧告に踏み切ることを示唆したと報じられている。「裏金事件で政治の信頼を失ったのは安倍派」であることを強調することで、派閥解消論で逆風に立った麻生・茂木派への批判をかわす狙いだ。
これに対し、安倍派の大親分である森喜朗元首相は麻生・茂木氏と面会し、猛烈に抗議したという。森氏は裏金事件が発覚した後、老人ホーム入居して「雲隠れ」していたが、捜査が終結し、安倍派幹部たちが窮地に立つなかで、麻生・茂木両氏に「直談判」に出向いた格好だ。
自民党内では、塩谷氏が座長として責任をとって離党し、あとの幹部たちは役職停止処分などに抑える妥協案が浮かんでいる。ただ、この場合も塩谷氏だけを立件するのは筋が通らないとの指摘も強い。二階派と岸田派も立件された以上、派閥のトップだった二階俊博元幹事長や岸田首相も離党しないと辻褄があわないからだ。
裏金事件は今年の自民党総裁選に向けて党内抗争を激化させることになった。派閥維持を目指す「麻生・茂木vs派閥解消で対抗する菅・二階・石破vs1日でも長く居座ることを目指す岸田」という三つ巴の駆け引きが激化していく。岸田首相がいつ退陣し、その後の総裁選がどう転んでいくのかが今年前半の政局の最大の焦点となる。