参院選を目前に控え、自民党がまたもや「現金給付」を打ち出してきた。物価高対策という建前だが、その本音は選挙対策に他ならない。内容は全国民に一律2万円、子どもと住民税非課税世帯にはさらに2万円を上乗せして合計4万円を給付するという案だ。
しかしこの施策は、景気回復にはつながらず、選挙対策としても逆効果となる可能性が高い。
なぜ自民党は、このタイミングで再び“現金給付”というカードを切ったのか──その内幕を明らかにしよう。
不評だった“ゾンビ政策”が復活
今回の現金給付案は、昨年度の税収上振れ分を財源にして配布するというものだ。赤字国債は発行せず、増収分をそのまま国民に還元する形を取る。この政策を自民党は参院選の目玉に掲げる考えだ。
だが実はこの案、4月にも一度検討されている。減税を訴える国民民主党の台頭に危機感を持った自民党は、補正予算を組んで現金をばらまくことで参院選を乗り切ろうとした。
しかし、世論は冷たかった。「現金給付より減税を」との声がネットでもメディアでも高まり、野党各党もこぞって反対。与党が少数の現状では補正予算を成立させる見通しが立たず、自民党はあっさりと撤回した経緯がある。
ではなぜ、この“不人気政策”をまた引っ張り出してきたのか。それは、参院選が目前に迫り、自民党内で「何もしないでは戦えない」という焦燥感が高まっているからだ。
参院選後に補正予算を組むことを前提に、「選挙前にニンジンをぶら下げ、与党が勝てば野党も補正に反対しづらくなる」という計算が働いているのだろう。
しかしその目論見は、はっきり言って甘い。
景気回復にはつながらない“ドケチ給付”
今回の現金給付は一律2万円。しかも財務省の意向に沿い「増収分だけ」を財源にするため、規模はごく限定的だ。これでは景気対策としての効果はほとんどない。そもそも取りすぎた税金を配り直すだけで、世の中に出回るお金の総量は増えない。
景気回復には、本来、国債を発行して大胆に財政出動し、民間の黒字を増やす政策が必要だ。しかし、財務省は財政規律を最優先し、「赤字は絶対に増やさない」という原則を守り続けている。そのため日本経済は長期低迷し、中間層は没落し、格差は拡大する一方となってきた。
しかも石破政権は「増収分を減税に充てる余裕はない」として、減税を一貫して否定してきた。それなのに今回に限って「増収分を現金で配る」というのでは、政策として整合性が取れない。ここに財務省の都合と矛盾が透けて見える。要するに「減税だけは絶対に認めない」という財務省の方針に忠実に従っているに過ぎないのだ。
野党も“同じ穴のムジナ”
自民党だけではない。立憲民主党もまた、財務省の影響下にある。
野田代表は筋金入りの財政規律派だ。今回の参院選では、立憲も「食料品の消費税ゼロ(1年限定)」と「現金給付2万円」をセットで掲げているが、その実態は自民党案と大差ない。
なぜこんな“ドケチ政策”ばかりになるのか──理由は簡単だ。立憲もまた、赤字国債の発行を拒否し、「財務省が許す範囲でしか政策をつくる気がない」からだ。
実際、立憲は年金改革で自公与党と合意し、内閣不信任案も提出しない。参院選後に自民党との大連立を視野に入れつつ、今は“対決しているフリ”をしているにすぎない。
マスコミは「自民と立憲が政策を競っている」と報じるが、これは“出来レース”に過ぎない。両党の共通の敵は、消費税減税を主張する国民民主党やれいわ新選組だ。減税こそが本当の対立軸なのである。
自民党が自ら蒸し返した“減税論争”
では、今回の現金給付案は選挙対策として有効なのか。答えは明白だ。むしろ逆効果だろう。
昨年の総選挙で国民民主党が躍進したのは、減税に共感する中間層、特に現役世代の支持があったからだ。納税者である彼らは、低所得者層に偏った現金給付を嫌い、「減税で税金を返してほしい」と考えている。今回の現金給付案は、そうした現役世代の反発を招くのは必至だ。
実際、進次郎農水相の登場によって政治の関心は「減税論争」から「農政改革」「コメ増産」に移りつつあり、内閣支持率も回復傾向にあった。それなのに、自民党自らがこの“ゾンビ政策”を再び掲げたことで、せっかく沈静化しつつあった減税論争に再び火をつけてしまったのである。
これでは、自民党がせっかく掴みかけた参院選の追い風を、自ら逆風に変えるようなものだ。まさに自滅であり、愚策と言わざるを得ない。
今の自民党は、政局の流れを読み違え、選挙戦略がどんどん下手になってきている。かつての「選挙巧者」の面影は、もはや薄れつつある。
参院選が近づく中で、この現金給付案がどのように受け止められるのか──それが今後の政局を左右する分岐点となるだろう。