支持率は低迷、国民からの信頼は地に落ち、自公与党は衆参両院で過半数割れ――。
このまま政権にしがみついても、自民党には先細りの未来しか見えない。
だが、もし政権を野党に明け渡し、いったん下野すればどうか。むしろそれこそが、自民党再生への近道になるのではないか。
意外に聞こえるかもしれないが、実は党内からも「下野論」が出始めている。
高市早苗リスクと萩生田提案
旧安倍派の萩生田光一氏らが、森山裕幹事長に「自民党は下野し、野党に政権を渡すべきだ」と進言した。萩生田氏が推すポスト石破の本命は高市早苗氏。世論調査では小泉進次郎氏と首位を争う有力候補だが、その保守色の強い外交・安保政策に、野党は警戒を強めている。
石破退陣後の総裁選で高市氏が勝利しても、国会の総理指名選挙で勝てる保証はない。野党が「高市阻止」で一致すれば、立憲民主党は野田佳彦氏を諦め、国民民主党の玉木雄一郎氏を担ぐ可能性が高い。こうなれば、急転直下で野党連立政権が成立し、自民党は野党転落だ。
この“高市リスク”を避けようという動きが党内にある一方、萩生田氏はあえて「野党に政権を渡せ」と迫る。保守層の離反を食い止め、旧安倍派の影響力を維持するためだ。
総裁選に敗れれば派閥復権の道は閉ざされる――その危機感が透ける。
野党連立政権は脆弱そのもの
仮に高市政権阻止で、立憲・国民・維新の野党3党が連立政権を組んだとしよう。
だが、参政党は参加せず、れいわや共産も距離を置く。議席数は過半数に届かず、予算や法案は都度の交渉次第。しかも、国民は積極財政派、立憲は財政規律派と政策が真逆だ。政権内部の調整は自公以上に難航必至である。
結果、2009年の民主党政権以上に脆い政権となるのは目に見えている。短命に終わり、有権者の失望を招く可能性は極めて高い。
下野のメリットは計り知れない
思い出してほしい。民主党政権が3年余りで崩壊した後、安倍晋三氏は「民主党政権の悪夢」を唱えるだけで6連勝を重ね、7年8カ月もの長期政権を築いた。政権を一度手放すことは、長期的には復活の足がかりになり得る。
加えて、下野は党内の世代交代を加速させる。2009年に自民党が政権を失った際、森喜朗氏や古賀誠氏ら長老が次々と引退し、安倍・麻生・菅の「鉄のトライアングル」が自由に政権運営できる環境が整った。
萩生田氏も同様に、いったん下野することで長老勢力を一掃し、旧安倍派が主導する新体制を築けると踏んでいるのだろう。
野党連立は幻、真の狙いは…
しかし、萩生田プランの実現性は低い。国民の玉木代表からすれば、不安定な野党連立の総理よりも、自公連立での総理就任のほうが安定し、政治的利益も大きい。副総理・財務相として高市政権に参加し、次期総理候補として存在感を増す道もある。
麻生太郎氏ら重鎮が高市支持に慎重なのも、野党転落を恐れてではない。高市政権で旧安倍派が再び力を持つのを避け、自らがキングメーカーとして玉木総理を操る――それが本音だ。そのためには、自民党総裁は“軽い”人物でいい。茂木敏充氏や鈴木俊一氏といった名前が浮かぶ。
結局、野党連立は幻に終わる公算が大きい。萩生田氏の下野論は、高市回避派への牽制という色合いが濃い。」それでも、筆者はあえて言いたい。強い野党第一党が存在しない限り、自民党は与党に居座りながら劣化を続けるだけだ。
いったん政権を譲り、野党再編を促すことこそが、日本政治の健全化につながる。
自民党よ、下野せよ。短期的には痛みを伴うが、それは復活への投資だ。
混乱する野党に政権を経験させたうえで、国民の失望をテコに政権奪還を狙う。政権与党としての自民党を延命させるより、そのほうがはるかに現実的な道なのだ。