自民党総裁選が9月に臨時で実施されることが、ほぼ確実となった。石破茂総理は出馬を見送る公算が大きく、退陣は避けられない情勢だ。参院選敗北を受けた党内の不満は頂点に達し、これから2カ月の間、日本政治は激動の局面を迎える。
9月「臨時総裁選」への手続き始動
8月8日、自民党は両院議員総会を開催し、「臨時の総裁選」を行うかどうかの党内手続きに入ることを確認した。両院議員総会は党大会に次ぐ意思決定機関であり、この場で方向性が示されれば流れは一気に固まる。
まず8月末には、森山裕幹事長による参院選敗北の総括が発表される。森山氏はこのタイミングで辞任を表明するとみられる。
その後、総裁選挙管理委員会が党所属国会議員と都道府県連代表の計342人に対し、「臨時総裁選」実施の是非を問う。過半数の172人以上が賛成すれば、総裁選実施が決定し日程が発表される。
すでに旧茂木派の笹川博義農水副大臣が呼びかけた両院議員総会開催の署名には120人以上が応じ、地方組織からも賛成表明が相次いでいる。世論調査では石破退陣賛否が拮抗するが、党内の流れは明らかに「交代」へ傾いている。
9月の総裁先告示は、ほぼ既定路線だ。
石破退陣のシナリオ
規則上、石破氏は臨時総裁選への出馬は可能だ。しかし推薦人20人を確保できる見通しは乏しく、仮に出馬しても勝算はない。総裁選日程が発表された段階で不出馬を表明する可能性が高い。
石破氏は「政治空白をつくるわけにはいかない。総裁選中も総理として国難にあたる」といった大義名分を掲げるだろうが、実態はメンツを保った撤退だ。
両院議員総会で有村治子会長が退陣への流れを示した際、石破氏が不満の表情を浮かべたとの証言もある。
党執行部はすでに石破後を見据えている。森山幹事長は、石破総理に退陣を迫っていた麻生太郎元総理、岸田文雄前総理と個別に会談し、総裁選挙を前倒しで実施することで、石破おろしの過熱を抑えることへの協力を求めていた。石破おろしの動きがやや沈静化していたのは、森山幹事長の「根回し」の効果にすぎない。
石破続投を支持する幹部は、事実上ゼロだ。
自民党の「総裁リコール規程」
総裁選のルールは「党則」と「総裁公選規程」に定められる。総裁任期は3年で、通常は全国の党員も投票できる「フルスペック総裁選」が行われる。
一方、党則6条は総裁が任期途中で欠けた場合の「臨時総裁選」を規定。緊急時には両院議員総会で、国会議員と都道府県連代表だけの投票で総裁を選出できる。
今回の特徴は、現職総裁が退陣表明をしていないことだ。党則はこうした「居座り」ケースも想定し、国会議員と都道府県連代表の過半数の要求で「臨時の総裁選」の実施を可能にしている。俗に「総裁リコール規程」と呼ばれる。
形式上は「石破おろし」ではなく、信頼回復のための手続きとして体裁を整える。だが結果的には総裁交代に直結し、新内閣発足までに2カ月程度の政治空白が生じる。
皮肉にも、石破氏自身が「政治空白を避ける」と言いながら、その原因となっている。
ポスト石破レースの火ぶた
9月総裁選が既定路線となり、ポスト石破をめぐる駆け引きは水面下で加速する。高市早苗、小泉進次郎、林芳正、小林鷹之、茂木敏充らが有力候補として取り沙汰され、元総理3人(麻生、菅、岸田)も影響力行使を狙う。
最大の焦点は、総裁選をフルスペックで行うか、両院議員総会による短縮版とするかだ。前者は2〜3週間の選挙期間で党員票が勝敗を左右し、党員人気の高い高市氏が有利。後者は1週間程度の短期決戦で、派閥力学が物を言い、林氏や茂木氏にも勝機が出る。
決定権を握るのは森山幹事長だ。財政規律派の森山氏は積極財政派の高市氏台頭を阻むべく、本音では短縮版にしたいだろう。旧安倍派など高市支持勢力が党内世論を盛り上げ、フルスペックに持ち込めるかどうかが8月末までの第一ラウンドだ。