政治を斬る!

自民党総裁選の行方――党員投票で優勢な高市早苗が劣勢のカラクリ

自民党総裁選の日程が正式に決まった。投開票は10月4日。党員も参加する「フルスペック方式」で行われる。現時点で見込まれる候補者は5人。票が分散すれば、昨年と同様に決選投票へともつれ込む可能性が高い。

党員票でリードするとみられるのは高市早苗氏、国会議員票で優勢なのは小泉進次郎氏。

決選投票では国会議員票の比重が圧倒的に大きく、進次郎氏に有利との見方が強い。

ここでは、総裁選の仕組みを踏まえつつ、昨年のデータからポスト石破レースの行方を展望してみたい。


政治空白の代償

総裁選の告示は9月22日。だが、与党が参院選で惨敗したのはすでに7月20日のことだ。石破茂首相の退陣は避けられない情勢と目されながら、石破氏は「政治空白をつくらない」との理由で続投を表明。その後の1カ月半、永田町は「退陣か、続投か」の一点に振り回され、政治は完全に停滞した。

参院選で自民党が掲げた現金給付も、野党が揃って訴えた減税も棚上げされたまま。とりわけ衆参で過半数を占める野党が声を揃えたガソリン税減税さえ、結論は出ていない。石破氏の居座りは「統治能力の喪失」と言ってよい。

石破氏は「日米関税交渉の決着を待った」と弁明するが、退陣不可避の首相が外交交渉を担うこと自体、国益を損なう。9月の国連総会にも出席予定だが、退陣表明済みの首相に対し、各国首脳がまともに向き合うことは期待できまい。外交面でも大きな損失となる。

新総裁が誕生するのは、連立交渉を経て臨時国会が召集される10月中下旬と見られる。参院選から数えて約3カ月もの政治空白。政権与党として致命的な遅延である。


フルスペック総裁選の重み

今回は党員投票を伴うフルスペック方式で行われる。自民党員は約105万人。投票は議員票と同じ295票に換算され、ドント方式で各候補に割り振られる。国会議員票とあわせて590票の争奪戦。第一回投票で過半数を獲得すれば即当選だが、届かねば上位二人による決選投票に進む。

昨年は9人が出馬し、大混戦となった。党員票で高市氏がトップ、石破氏が2位、小泉氏は3位に沈んだ。決選投票で石破氏が逆転勝利した。

決選投票では都道府県ごとに1票が配分され、党員票は47票に縮小。国会議員票が圧倒的な決定力を持つ仕組みだ。

今回も候補者が乱立すれば第一回投票での過半数獲得は困難。決選投票で国会議員票に強い進次郎氏が優位に立つ構図は揺るがない。


候補者の顔ぶれ――代わり映えのしない競争

現時点で出馬が有力視されるのは、高市早苗、小泉進次郎、林芳正、小林鷹之、茂木敏充の各氏。いずれも昨年総裁選の上位者であり、顔ぶれに新鮮味は乏しい。

石破氏を除く昨年の得票が今回の基礎票となるのは間違いない。注目すべきは石破票の行方だ。石破氏を支持した層はリベラル色が強く、高市氏や小林氏に流れる可能性は低い。むしろ小泉氏や林氏に流れる公算が大きい。

一方、上川陽子氏や河野太郎氏、加藤勝信氏らは前回の低迷や派閥事情から出馬の見込みは薄い。結果として、候補者は昨年から大きく変わらない「横並び」の構図となりそうだ。


昨年との比較が示すもの

昨年の党員投票は、高市109票、石破108票、小泉61票と、高市・石破両氏が突出していた。石破票の受け皿が今年の最大の焦点だ。高市氏が昨年を大きく超えるのは容易でなく、石破支持層の多くが小泉氏や林氏に流れる可能性が高い。

国会議員票は小泉75票、高市72票、石破46票が上位。小泉氏はトップを維持したが、高市氏が、石破阻止を最優先した麻生派から土壇場で支持を得て僅差に迫った経緯がある。

石破抜きの今回は麻生太郎元首相が進次郎氏支持に傾くとみられ、高市氏にとっては厳しい展開だ。

林氏は官房長官として存在感を増すが、旧岸田派との関係が足かせになる。岸田文雄前首相は再登板の意欲を捨てておらず、旧岸田派ナンバー2の林氏の台頭を快く思っていない。岸田氏が小泉支持に回れば、林氏は苦戦を強いられる。

総じて言えば、党員票で優位な高市氏も、決選投票に進めば国会議員票の壁に阻まれる。小泉氏が本命である構図は明確だ。ただし林氏が石破票を取り込み、小泉氏を抜いて決戦投票へ進み、高市氏との一騎打ちに持ち込めば、意外な展開もあり得る。


おわりに

石破政権の迷走が続くなか、自民党は新総裁を選び、与党としての再生を国民に示さねばならない。しかし候補者の顔ぶれは代わり映えせず、昨年の総裁選の延長戦に見えるのも事実だ。

決戦投票での国会議員票の重みを考えれば、現時点では小泉進次郎氏が最有力候補とみるのが妥当だろう。

もっとも、政治は生き物だ。石破票の行方、連立交渉の行方、派閥力学の揺らぎ。ひとつの読み違いが結果を大きく変える可能性もある。

10月4日、自民党の命運を分ける一票はどこへ向かうのか。日本政治の針路を決める総裁選の戦いは、すでに始まっている。