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高市早苗、予想外の大逆転勝利―自民党総裁選が映し出した権力地図の大変動

自民党総裁選は、誰もが予想しなかった大波乱の結末を迎えた。第一回投票の国会議員票で3位に沈んだ高市早苗氏が、決選投票で大逆転を果たし、初の女性総理大臣誕生が現実のものとなったのである。

選挙戦を通じて「本命」とされた小泉進次郎氏は、地方党員票で劣勢に立たされ、終盤には文春砲に揺さぶられた。林芳正氏も追い上げたが及ばず。最終盤で林、小林、茂木両陣営が高市氏に流れ、情勢はひっくり返った。日本政治史に残る逆転劇といえよう。


党員票で広がった差

勝敗の分水嶺は、やはり党員票にあった。
高市氏は119票を獲得してトップに立ち、小泉氏の84票を大きく引き離した。国会議員票で劣勢が見込まれていたからこそ、早期から「党員票での勝利」を戦略の柱に据えていたのだ。

そのために、高市氏は公約で「靖国参拝」や「消費税減税」を前面に出すことを避け、警戒感を薄める一方で、演説では外国人観光客による奈良の鹿への暴力を批判するなど、保守層へのアピールも忘れなかった。バランスを取りつつも熱烈な支持層を維持する巧妙な戦術が功を奏したといえる。

一方の小泉氏は、党内融和を強調する「守りの選挙」に徹した。敵を作らず、人気者から「挙党一致の象徴」へとイメージ転換を図ったが、結果として党員票の伸びを欠き、最後は勢いを失った。加えてステマ疑惑や神奈川県連の党員不正問題などが追い打ちをかけ、党員票で高市氏に逆転を許したことが決定的だった。


国会議員票の思惑

国会議員票では、小泉氏が80票で首位、林氏が72票で続き、高市氏は64票と3位にとどまった。議員票では当初の予想通り小泉優位に進んだが、ここでも大物政治家の思惑が交錯した。

最大のカギを握ったのは麻生太郎元総理だ。前回は石破茂氏阻止のため第一回投票から高市支持に回ったが、今回は「決選投票では党員票が多い候補を支持せよ」と派閥内に指令した。これが「麻生が高市に回った」との空気を生み、第一回から数十票規模の上積みにつながったとみられる。さらに小林・茂木両氏が予想より票を上積みしたのは、麻生派との連携が土壇場で成立した可能性がある。麻生氏による「進次郎包囲網」が功を奏した格好だ。

また、岸田文雄前総理も注目された。表向きは旧岸田派の林氏を支持しつつも、内心では林総理誕生を嫌い、進次郎支持を模索していたとされる。だが、麻生氏の鞍替えが誤算となり、岸田氏の影響力は大きく後退した。


決選投票の大逆転

決選投票は、国会議員295票に加え、都道府県ごとの党員票47票を加えた形で行われる。ここで高市氏は36票を獲得し、小泉氏の11票を大きく上回った。

小泉氏は自らの80票に林陣営の大半を加え、過半数をほぼ手中に収めたかに見えた。ところが、小林、茂木陣営は高市支持に傾き、小泉陣営か林陣営からも一部が流出。情勢は一気に逆転した。議員たちの脳裏にあったのは「党員票で勝った候補を無視すれば、自民党に逆風が吹く」という恐怖である。そこに麻生氏の号令が加わり、最後の票が動いた。

結果として小泉氏は145票にとどまり、高市氏が過半数を制して初の女性総理が誕生した。


今後の焦点――人事と連立

高市新総裁を待ち受けるのは、難題の山積だ。
まずは党役員人事である。大逆転を支えた麻生氏の影響力は飛躍的に増すだろう。幹事長には麻生派の鈴木俊一氏や、旧安倍派の萩生田光一氏が有力視される。さらに大逆転の功労者である小林鷹之氏や茂木敏充氏も重要ポストにつくのは確実だ。

一方で最大のライバル・小泉氏の扱いも重要だ。幹事長に据えるのか、閣僚や政調会長ポストに回すのか。

また、石破政権を支えた森山裕幹事長や菅義偉副総裁の失脚は避けられず、党内権力地図は塗り替えられる。財務省も「高市阻止」に失敗し、影響力は低下するだろう。高市氏が掲げる減税をめぐり、財務相を長く務めた麻生氏と財務省の間でどのような折衝が行われるかも注目だ。

連立政権の枠組みも揺らぐ。小泉・林両氏が想定していた維新との連立は白紙となり、代わって高市氏に政策的に近い国民民主党との接近が取り沙汰される。ただし、麻生氏は国民民主の減税路線に批判的であり、交渉は一筋縄ではいかない。


日本政治の新局面へ

石破政権の主流派が崩壊し、自民党は新たな権力構造に突入した。高市氏の勝利は、党員票という「草の根の声」が国会議員の思惑をひっくり返した点で、象徴的な意味を持つ。だが、逆転劇の勢いがそのまま政権運営の安定につながるかは不透明だ。

人事での調整、減税をめぐる財務省との綱引き、野党との連立交渉――高市新総裁の前には数々の試練が待ち受けている。だが、初の女性総理誕生という歴史的瞬間を果たした高市氏は、国民の期待と注目を一身に集めている。

この大逆転が「新しい政治」の始まりとなるのか、それともさらなる混迷の幕開けとなるのか。日本政治の針路は、いま大きな転換点に立っている。