自民党で「影の総理」と言われている森山裕幹事長の地元・鹿児島が保守分裂で炎上している。森山氏は今年7月の参院選鹿児島選挙区に、今季限りで引退する尾辻秀久元参院議長の三女ではなく、子飼い元参院議員の擁立を決定。尾辻氏の三女はこれに反発し、立憲民主党の推薦を得て出馬すると表明した。
これは単純な「自民党vs立憲民主党」の対決構図ではない。
実は、立憲の鹿児島県連を率いる川内博史衆院議員は、増税派の野田佳彦代表と距離を置く筋金入りの減税派だ。
森山幹事長は財務省べったりの増税派。国民民主党が求める所得税減税に「財源の裏付けのない話はしてはならない」と難色を示し、参院選後の立憲との増税大連立を画策している。水面下で連携しているのは、立憲の安住淳元財務相である。
そしてこの安住氏と川内氏は早大雄弁会時代からのライバルなのだ。
野田氏が民主党政権の首相として消費税増税をめぐる自公両党との3党合意を進めた時、安住氏は財務相や国対委員長として野田氏を支えたのに対し、川内氏は消費税増税法案に反対票を投じて造反した。安住氏は今、立憲民主党の主流派として衆院予算委員長に就任する一方、川内氏は非主流派として減税を訴えている。
鹿児島の保守分裂は、「増税vs減税」を対立軸とした参院選後の政界再編を先取りした動きとして、極めて注目していい。
鹿児島は保守王国だ。参院選も自民党が勝ち続けてきた。6年前は尾辻秀久氏が当選し、その後、参院議長に就任した。今年の参院選には出馬せず、政界引退を表明した。
これを受けて自民党鹿児島県連は公募を実施。尾辻氏の三女で秘書を務めていた尾辻朋実氏、元参院議員の園田修光氏、自民党県議の外薗勝蔵氏が名乗りを上げた。
3氏による公認争いを勝ち抜いたのは、園田氏である。森山幹事長が強く後押ししたためだ。
園田氏は元県議で社会福祉法人の理事長でもある。1996年に衆院選(鹿児島2区)に当選したが、一期で落選。2016年参院選比例区で全国老人福祉施設協議会の組織内候補として出馬し、自民最後の19議席目で当選して16年ぶりに国政復帰したが、2022年参院選比例区では落選した。選挙地盤は決して強くない。
その園田氏を森山幹事長が後押しし、2024年12月に参院選鹿児島選挙区の公認候補に決定した。公認争いに敗れた尾辻氏はこれに反発して立憲民主党に入党し、立憲の推薦を得て参院選に出馬する意向を表明したのである。
森山氏は少数派閥の領袖にすぎず、党内基盤は弱い。野党人脈を駆使し、自公過半数割れで野党との連携が不可欠な政局の中で影響力を拡大した。
森山氏が特に親しいのは、かつて与野党の国対委員長として気脈を通じた安住氏だ。ともに財務省に近い増税派として知られる。安住氏を窓口に立憲民主党との大連立を実現させれば、森山ー安住ラインで政局を牛耳ることができる。
森山氏にすれば、来るべき大政局に備え、自民党内に自分の意向に全面的に従う仲間をひとりでも増やしておきたい。地元・鹿児島の参院選で尾辻秀久氏が引退した後に自らの息がかかった後継候補を擁立するのは必須だった。
森山氏主導の候補者決定は県連内に波紋を広げている。森山氏は昨年10月の衆院選で自民候補を破って無所属で当選した三反園訓・元知事の自民党入党を決めたばかり。これにも県連内には異論が収まらない。
こうしたなか、尾辻氏の三女・朋実氏は立憲民主党に入党し、立憲の推薦を得て参院選に出馬すると表明した。
尾辻秀久氏は「応援はできないが、自分が決めたことを信じてほしい」と語っているという。
立憲の川内氏は筋金入りの減税派だ。民主党政権で消費税増税法案に造反して反対票を投じた。安住氏とは早大の同学年で、ともに雄弁会に所属したライバルだ。
自民党主流派の森山氏と、立憲民主党主流派の安住氏が増税大連立を視野に水面下で手を握る中、鹿児島では森山氏に切られた尾辻氏の三女と減税派の川内氏が連携したという構図である。
これは参院選後、自民と立憲の増税大連立に対抗する減税派が結束できるかどうかという政界再編の動きを先取りしたといえなくもない。
自公与党に減税を迫る国民民主党の玉木雄一郎代表も民主党時代に安住氏に敬遠され、野党再編のなかで立憲民主党には加わらなかった経緯がある。政界の対立構図は「増税vs減税」へ徐々に移り始めている。
今年7月の参院選は「自民vs立憲」の単純な対決構図ではない。私たち有権者は党派で選択するのではなく、参院選後の政界再編を見据え、候補者が増税派か減税派かで判断しなければならないだろう。