最終盤の国会で前代未聞の出来事が起きました。衆議院の常任委員長が、野党の賛成多数によって解任されたのです。
国会法に規定されているとはいえ、戦後初。大手マスコミも「国会史上初の解任劇!」と報じ、大騒ぎとなりました。
ところがこの騒ぎの裏にあるのは――「与野党談合」という茶番です。
表向きはガソリン税減税をめぐる与野党の激突。しかし実態は、内閣不信任案を提出する度胸も覚悟もない野党が、国民向けに“戦うフリ”をして見せただけの話です。
今回は、その舞台裏を徹底解説します。
ガソリン税減税をめぐる「解任劇」
事の発端は、立憲民主党などが提出した「ガソリン税の暫定税率を来月から廃止する法案」です。
これが成立すれば、ガソリン価格は今よりも1リットルあたり25.1円下がります。今の補助金方式に比べても15.1円も安くなる計算です。
しかし石破総理や自民党執行部はこれに強く反対。与党として審議入りすら認めない構えをとりました。
法案を審議する財務金融委員会の委員長である自民党・井林辰憲議員は、執行部の方針に従い、この法案を審議に付すことを拒否したのです。
これに対して、野党が委員長解任決議案を提出。今の衆議院は「少数与党国会」であり、野党が一致団結すれば数の力で押し切れる状況です。今回は立憲、維新、国民民主、れいわ、共産、参政、日本保守党までが賛成に回り、衆院本会議で可決されました。
戦後憲政史上、初の出来事――。しかし、この歴史的な決議も、実は“本丸”から目を逸らすための「見せ場」に過ぎなかったのです。
野党はなぜ結束できたのか?
これまで野党各党はバラバラでした。当初予算案は維新が賛成に回り、年金改革法案では立憲が賛成に回りました。与党に完全に分断されたきたのです。
今回ばかりは、なぜ野党が結束できたのか。
理由は簡単。テーマが「ガソリン税減税」だからです。どの政党も支持層に対して“減税”を訴えてきた手前、ここで反対すれば参院選を前に致命傷です。
また、先に江藤農水大臣の「コメは買ったことがない」発言の際にも野党は一致団結して辞任に追い込んだ経緯があります。それまで、立憲民主党との連携に慎重だった国民民主党が、支持率急落で歩み寄ってきたという事情もありました。
今回は、その“第二弾”。
とはいえ、これはあくまでも一時的な呉越同舟です。参院選では同じ政権批判票を奪い合うライバル同士。今回の共闘が選挙戦まで続く保証はまったくありません。
内閣不信任案は出さない――「戦うフリ」の限界
さらに重大なのは、立憲が内閣不信任案の提出を見送ったことです。
今の衆議院で不信任案が提出されれば、石破総理は採決を待たずに衆院解散に踏み切る構えを見せていました。衆参ダブル選挙になれば、小泉進次郎農水大臣の人気を背景に、自民党が過半数を奪回する可能性が高い。
もしそうなれば、せっかく少数与党国会で野党の主張の一部が与党に取り入れられ、存在感を示すことができる政治情勢が失われてしまう――これが野党各党の本音です。
結局、野党には、内閣不信任案の提出で衆参ダブル選挙に追い込み、選挙で勝って政権交代を実現する覚悟はなく、内閣不信任案に代わる参院選向けの“パフォーマンス”として委員長解任決議に踏み切ったにすぎません。
立憲・野田代表が「今はトランプ関税をめぐる日米協議が続く国難だ。衆参ダブル選挙で政治空白をつくるわけにはいかない」と主張しているのも、衆参ダブル選挙で政権交代を実現させる自信がないことを隠して、不信任案提出を見送る方便に過ぎないのです。
まさに「与野党談合」の茶番劇。
ガソリン税減税法案の行方は?
結局、このガソリン税減税法案は成立しませんでした。ガソリン価格の値下げは実現しなかったのです。
衆院の財務金融委員会では、井林氏の後任に立憲民主党の阿久津議員が就任し、法案審議が行われました。しかし、審議入りは事実上の国会最終日の前日、そして法案の可決は事実上の最終日でした。
衆院で可決して参院に送り、参院で審議して可決・成立する時間的余裕はまったくなかったのです。
参院では自公与党が過半数。数の上でも、成立は絶望的でした。
本気でガソリン税減税を実現させるならば、国会の会期を延長し、参院でもしっかり審議して、ガソリン価格の値下げを求める世論を喚起し、与党にプレッシャーをかけるしかありませんでした。
衆院で過半数が賛成すれば、国会の会期延長は可能だったのです。
でも、野党はそうはしなかった。法案は参院で成立せず、国会は予定通り6月22日に閉会します。
つまり――この減税法案も結局は「選挙向けパフォーマンス」に過ぎませんでした。
茶番国会の果てに
こうして国会最終盤に繰り広げられた“国会史上初”の解任劇も、その正体は「政権にしがみつく与党」と「本気で政権交代を目指さない野党」の談合政治そのものです。
与党も野党も、本気で国民の生活を良くしようとはしていない。そんな絶望感だけが漂っています。
このまま参院選に突入すれば、主導権を握るのは間違いなく自民党側。野党は“戦うフリ”を続ける限り、選挙でも負け続けるでしょう。
政治に本気が求められる今――「本物の戦い」を見せる気概が、果たして日本の政界に残っているのか。国民が試される時代が続きます。