総理大臣は「伝家の宝刀」と呼ばれる衆院解散を断行するか否かだけはウソをついてかまわない。永田町ではそう言われている。だから少しでも前向きな発言をすれば、永田町には一気に解散風が吹き荒れる。
岸田文雄首相が3月4日の参院予算委員会で、4月解散について「まったく考えていない」と否定した。
立憲民主党の辻元清美氏が、3月2日の土曜日に予算案を急いで衆院通過・参院送付したことに関連して「(4月28日投開票の衆院の3つの)補欠選挙に負けたら、(9月の自民党)総裁選の再選が危うくなる。だから4月に一か八かの裏金解散を考えているのではないか」と迫った。これに対し、「まったく考えていない。国民にとって大切な予算の成立を図ること、これに尽きる」と答えたのである。
この「まったく考えていない」は完全否定にはならない。3月下旬に予算案が成立した後、岸田首相は4月10日に国賓待遇で訪米する。帰国後ただちに衆院解散を断行すれば、自民大逆風の4月16日告示ー4月28日投開票の衆院3補選を吹き飛ばし、4月28日投開票の総選挙を実施できる。予算成立後に解散断行について密かに考え始め、米国から帰国した後に決断したーーと言えば、いまの時点で「まったく考えていない」というのはウソにはならない。
まして総理大臣は衆院解散については「ウソをついてよい」のである。
さらに辻元氏の質問に対して「国民にとって大切な予算の成立を図ること、これに尽きる」と答えたのは、「予算成立後は、一か八かの裏金解散を考えるかも」と認めているように深読みさえできる。
とにかく予算成立までは裏金追及に耐えるが、予算成立後は反転攻勢に出て、4月10日の国賓訪米で支持率を回復させ、そのまま衆院解散を断行し、9月の総裁再選へ道筋をつけたいーーこれまで私が指摘してきたとおり、岸田首相にとって4月解散は有力な選択肢であることは間違いない。
岸田文雄首相は昨年6月、立憲民主党が内閣不信任案を提出した場合は解散に踏み切る可能性が十分にあるという姿勢を自ら振り撒き、解散風を煽りに煽った。何を聞かれても完全否定せず、含みを残し、マスコミ各社が解散に前のめりな報道を繰り返しても放置したのである。
私は当時、昨年6月の解散はないとの見方を繰り返していた。岸田首相が解散風を煽っているのは、①長男翔太郎氏のスキャンダルから目をそらすため②立憲民主党の内閣不信任案提出を阻止し、連携の芽を残すためーーと解説した。だが、本気で解散する覚悟もないのに解散風を煽りまくり、結局は6月解散をあっけなく見送ったことで「首相に弄ばれた」との不快感が与野党に広がり、求心力は大幅に落ちた。
その反省もあり、今回はそう簡単に解散風を煽ることはないだろう。少なくとも3月下旬の予算成立までは「予算成立が最優先」との姿勢で乗り切れる。
ポイントは予算成立時にどんなメッセージを出すかだ。本気で4月解散を考えるのなら、3月下旬の予算成立時にはそれなりにニュアンスを出さなければ、自公与党も心づもりができない。
そうなると、参院予算審議を通じて内閣支持率が3月下旬時点でさらに落ちるのか、それとも野党が裏金問題を追及に手こずって内閣支持率の下落に歯止めがかかり回復基調に転じるのかが、岸田首相の4月解散の決断を大きく左右することになるだろう。
その意味で、参院での裏金追及は極めて重要なのである。