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年内解散を阻む「二つの壁」──永田町の読みと裏事情

石破総理の退陣は、カウントダウンに入った。
自民党総裁選が9月に行われ、新しい総裁の下で新内閣が誕生すれば、支持率が高いうちに衆院解散――そんな永田町の噂は絶えない。早ければ年内解散、年末決戦という見方も流れている。

だが、ことはそう単純ではない。総理の顔を変えたからといって、解散ボタンを押せるわけではないのだ。
ここでは「年内解散に立ちはだかる二つの壁」を解き明かしていきたい。


新政権は“連立前提”で動く

まず前提として押さえるべきは、自公だけでは衆院で過半数割れという現実だ。
新しい総裁は、臨時国会の総理指名選挙で多数を確保しなければならない。野党の一部を取り込み、連立政権を組むか、あるいは野党間の結束を崩す工作が欠かせない。

有力候補のひとり、高市早苗氏が麻生太郎元総理らの後押しで総裁に就けば、積極財政で一致する国民民主党との連立が有力だろう。
一方、小泉進次郎氏が菅義偉元総理の支援で勝てば、日本維新の会との接近が見込まれる。
その他、重鎮の岸田文雄前総理や茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、中堅の小林鷹之氏らの名前も取り沙汰されるが、いずれも新政権は“単独自公政権”では動けない。連立パートナー(あるいはパートナー候補)の顔色をうかがう政権運営が必須となる。

つまり、解散のタイミングは自民党だけの意向で決められない。これが最初の制約だ。


第一の壁──支持率の伸び悩み

次に立ちはだかるのが「支持率」という現実的なハードルだ。

新総理誕生で一時的に世論が沸き立つ可能性はある。高市氏なら保守層、小泉氏なら若年層の支持を回復できるかもしれない。
だが、それと同時に別の層が離れるリスクもはらむ。高市氏は右派色、小泉氏は農村や高齢層との相性の悪さが指摘されている。

加えて、石破総理のままでも「辞めるべきではない」という声が一定数存在する。これは、自民党の支持離れが“総理個人”の問題ではないことを物語っている。
林氏や茂木氏のような政策通が総理になっても、世論の劇的回復は見込みにくい。

衆院の任期はまだ3年ある。内閣支持率が跳ね上がり、「今なら圧勝」という確信がなければ、年内解散には踏み切れない。


第二の壁──連立相手の“解散拒否”

もう一つの壁は、新たに政権入りする連立パートナーの意向だ。
立憲民主、維新、国民民主――いずれの野党も、連立入り直後の選挙には慎重だ。参院選での敗北や支持率低迷の傷を抱える中で、早期解散は自らの首を絞める。

国民民主党は参院選で躍進したが、参政党から猛烈な追い上げを受けており、今すぐ選挙に臨めば地盤をさらに削られる可能性が高い。
結局、どの政党も連立参加後は政策実現を優先し、しばらく解散封印を望む構図になる。

早期解散で唯一得をするのは参政党だ。衆院3議席の小所帯ゆえ、選挙になれば大幅増が見込まれる。自民党にとっては最大の脅威となりつつあるだけに、その勢いを慎重に見極めたい心理も働く。


異例シナリオ──玉木政権誕生なら?

仮に自民党総裁ではなく、国民民主の玉木雄一郎代表を総理に担ぐ「自公国」連立政権が誕生すればどうか。
この場合、麻生氏がキングメーカーとして復活する公算が大きい。
玉木総理が少数与党の立場で解散権を握るのは難しく、麻生氏の意向が決定打となる。

支持率が低迷すれば減税などの実績づくりが優先されるが、逆に玉木人気が高まれば、年内解散の誘惑は強まる。
減税を前面に押し出し、「今が勝負」とばかりに解散を打てば、自公与党だけで過半数回復も夢ではない。
もっとも参院過半数割れは続くため、連立解消までは至らないだろう。


年内解散は“可能性ゼロ”ではない

総裁交代は政局の大きな転換点だが、連立相手の思惑や支持率の不確実性が絡み合い、年内解散は容易ではない。
ただし、玉木政権のような異例の政権パターンや、予想外の支持率急上昇があれば、一気に現実味を帯びる可能性も残されている。

年内解散説――それは永田町の空気を熱くする魅惑のキーワードでありつつ、複雑な利害が交錯する政治の縮図でもある。