政治を斬る!

定数削減と年内解散―高市政権が仕掛ける「政治決戦」の読み方

永田町がざわめいている。
キーワードは「議員定数削減」と「年内解散」。
自民党と日本維新の会が連立合意の柱に据えた定数1割削減法案を臨時国会に提出し、野党が反対したら―ただちに衆院解散だ。

高市内閣は就任直後から支持率が跳ね上がり、株価も過去最高を更新。政権のボルテージが急速に上がる中、早期解散論は一気に永田町の主題に躍り出た。
しかし、もし年内に解散を打つなら、与野党協議を会期末の12月17日まで引き延ばしてはいられない。どんなに遅くとも12月初旬には解散を断行しないと、正月までに選挙が終わらない。タイムリミットは刻一刻と迫る。

定数削減の是非を問う解散は現実味を帯びてきたのか。
維新の遠藤敬国対委員長兼総理補佐官の発言を手掛かりに、年内解散の可能性を読み解いていく。


■「成果を出してから」――遠藤発言の二つの顔

波紋を呼んだのは、維新の遠藤国対委員長の一言だ。
高市総理と吉村代表を橋渡しした連立合意のキーマンであり、国会対策の司令塔として総理補佐官にも就いた人物が、ネット番組で解散に言及した。
共同通信は「成果を出してから」と慎重姿勢を強調したと報じたが、読売・産経は「身内の反対も圧力になる」と、むしろ解散に前向きだと伝えた。

なぜ報道が割れたのか。そこに、政局の核心がある。

自民と維新は、臨時国会中に定数削減法案を提出することで合意している。中身は比例50削減だ。
ただし、両党だけでは国会で過半数がない。野党が結束すれば法案は通らない。

遠藤氏は「成果」を法案成立と見ているのか、法案提出と見ているのか。
その判断で、解散のタイミングは大きく変わる。


■自民党内の抵抗を圧する「解散カード」

まず見落としてはいけないのは、遠藤氏が自民党内部への牽制を強めている点だ。

比例削減は中小政党に致命的だが、実は自民党内にも抵抗が強い。
比例復活で議席を得てきた議員にとって、議席削減はまさに死活問題。
公明党票を失った今、比例復活で救われてきた自民の中堅・若手は早期解散を最も恐れている。

遠藤発言はこんな脅しだ。

「臨時国会で法案を提出しなければ、解散だ」

つまり「反対したら公認を失い、選挙でも沈むぞ」と、自民内の抵抗を封じ込める狙いだ。

定数削減は、維新にとって連立の成果を示す最大の武器。
遠藤氏は“連立の要”として、法案提出を何が何でも実現しようとしている。

読売・産経がこの文脈を強調したのは、まさにここだ。
解散権をちらつかせることで、与党内の反対を抑え込む――政局の一手である。


■「成果」とは何か――年内解散か、1月冒頭解散か

問題は、法案提出後の展開だ。
野党が結束すれば法案は否決される。しかしその瞬間、総理は解散に踏み切れる。

このとき、遠藤氏の言う「成果」がどこに線を引くかで、戦略は二通りに分かれる。

①成果=法案提出 → 年内解散または1月冒頭解散のシナリオ
法案を提出し、野党が反対して成立見通しが立たなくなれば、ただちに解散(間に合えば年内、間に合わなければ1月冒頭)。総選挙は現行定数で行われ、勝利後に通常国会で改めて定数削減法案を提出する。

②成果=法案成立 → 解散見送り

法案を提出して臨時国会で成立すれば連立の成果となる一方、解散の大義はなくなり、当面は解散見送りだ。
共同通信が慎重論に寄せたのは、この読みだ。


■高市総理の本音――「政権奪還」への手段

ここで忘れてはならないのは、高市総理の立場だ。
自維連立は衆参とも過半数割れ。自民党は麻生支配が強く、総理の足場は弱い。

高市総理が本当に求めるのは、選挙による主導権確立だ。
いま支持率70%台、株価絶好調、外交アピールも成功――
“今打てば勝てる”と踏めば、解散は長期政権を掴むための武器になる。

定数削減法案を成立させることよりも、野党の反対を受けて定数削減の是非を国民に問う解散総選挙に踏み切るほうが魅力的だ。

遠藤氏は、維新の国対委員長としては連立を成果をあげるため「法案成立」を優先する立場にあるが、総理補佐官としては「野党に反対させて解散の大義を得るための道具」として法案を政局利用する立場といえよう。


■タイムリミットは1か月――主戦場は与野党協議

結局のところ、鍵を握るのは定数削減法案をめぐる与野党協議のスケジュールである。

12月初旬が年内解散の最後のタイミング。
その前に与野党協議を打ち切るか否かが、政局の天王山となる。

年内解散か、1月冒頭か、それとも機を逸して失速か。
定数削減をめぐる攻防は、単なる制度論ではなく、高市政権の存亡、そして政界地図の未来を決める戦いだ。