政治を斬る!

高市×神谷「日本人ファースト」決裂の裏に―維新と結んだ“比例50削減”の罠

日本政治の新たな対立軸が、早くも姿を現した。
「日本人ファースト」で共鳴していたはずの二人――高市早苗総理と参政党の神谷宗幣代表が、国会で真っ向からぶつかった。

臨時国会の代表質問。神谷代表は、外国人受け入れ政策やコロナ対策で政府の姿勢をただした。
「国民が削減すべきと感じているのは議員定数ではなく、外国人の受け入れ数だ」。
だが、高市総理は「基礎的な調査・検討を進めてまいります」と官僚答弁を繰り返すだけ。
実質的なゼロ回答に、神谷氏は「方向性が違うことがわかった」と記者団に表明した。
蜜月に見えた関係は、こうして初の国会論戦で早くも亀裂を見せた。

背景にあるのは、高市政権が維新と合意した「議員定数削減」である。
維新が主張する「衆院比例50削減」を受け入れれば、参政党は大きな打撃を受ける。
参政党は前回参院選で比例区を軸に14議席を獲得し躍進したが、いずれも比例と複数区で、小選挙区では勝てなかった。比例を削られれば次の総選挙での勢力拡大は望めない。
実際、自民は全国で候補者を立てるため、比例削減の影響をほとんど受けない。維新は大阪の19選挙区で全勝しており、こちらも影響は他党より小さい。
比例削減の最大の標的は参政党なのだ。

維新はこの臨時国会で定数削減法案を提出しなければ連立離脱も辞さない構え。
高市総理は維新との関係維持を優先する以上、神谷代表を突き放すしかなくなった。
参政党の協力を模索していた序盤の柔らかい姿勢は、もはや見る影もない。

両者の溝は、政治理念の根幹にもある。
参政党の神谷代表が掲げるのは、グローバル企業による支配から日本人の暮らしを守る「反グローバリズム」。
医療、農業、金融など生活基盤を守るための“日本人ファースト”である。
一方、高市総理は総裁選の「奈良の鹿」発言で外国人観光客を批判したものの、グローバル企業と敵対するつもりは毛頭ない。そもそも自民党は経済界とともにグローバル化を推進してきた政党だ。

両者は「愛国」「保守」を掲げながら、実はグローバリズムをめぐって正反対の方向を向いているのだ。

今回の国会論戦では、もうひとつの構図も浮かび上がった。
れいわ新選組の山本太郎代表が高市政権を徹底批判したのである。
「アメリカの尻馬に乗った大軍拡、防衛増税、裏金議員の要職起用――なぁぜなぁぜ?」。
若者の流行の言葉を交えた皮肉で高市総理を挑発し、「現金給付の実施」を迫った。
高市総理は「実施はいたしません」と冷たく突き放した。

山本氏は、高市氏の政治経歴を「小泉・竹中路線の継承者」と位置づけた。
郵政民営化、消費税増税――構造改革の申し子としての姿を突く形だ。
右上(保守・グローバル)に位置する高市政権に対し、右下(保守・反グローバル)の参政党、左下(リベラル・反グローバル)のれいわ――。
新しい“上下軸”の対立が、いよいよ日本政治にも根を下ろしつつある。

そしてもう一つ、静かな火種がある。
公明党だ。
高市総理が就任前、公明党の斉藤代表に「裏金議員は内閣に入れない」と語ったことを、同党の西田幹事長は参院の代表質問で暴露した。

ところが、高市総理は実際には副大臣・政務官に7人を起用したのだ。
西田氏は「判断基準を説明せよ」と迫ったが、高市総理は「適材適所」とかわした。
公明党はこの答弁に強く反発。参院では高市政権に距離を取り、立憲民主党への接近を模索している。

こうして見渡すと、定数削減を軸にした高市政権の布陣はきわめて危うい。
維新との連立によって国会多数を確保したように見えて、その裏では参政党、れいわ、公明――比例削減の打撃を受ける勢力が次々と反高市の立場に回りつつある。
いわば「比例削減包囲網」が広がっているのだ。

高市総理が今後、維新との連立を優先して野党を敵に回すのか、あるいは維新の要求を緩めて他党との協調を模索するのか。
支持率82%の勢いに陰りが見え始めれば、この綱引きが一気に表面化する。

「日本人ファースト」の旗の下で結びついたはずの高市早苗と神谷宗幣。
だが、政治は理念よりも数の論理で動く。
定数削減という一枚のカードが、保守陣営の分断を決定づけようとしている。