政治を斬る!

高市vs財務省―「官邸人事」で始まる積極財政バトル

支持率も株価も上昇し、国民の期待を一身に集めて船出した高市内閣。その原動力は、「積極財政」への期待感にほかならない。財務省ベッタリの石破政権のドケチ路線を180度転換する姿勢が評価されているのだ。

だが、この期待を裏切れば、一気に失速しかねない。高市総理がその命運を握るのは――ズバリ「人事」である。

経産・警察を重用 安倍モデル再現

高市官邸の陣容で最も注目を集めたのは、経産省出身の今井尚哉氏を内閣官房参与に起用したことだ。安倍政権で筆頭の総理秘書官を務めて「影の総理」と呼ばれた人物であり、保守色を保ちながらも経済政策を優先し、経産省と警察庁を官邸に取り込む政権運営を主導した。
今回もその「安倍モデル」を再現しようというわけだ。

筆頭秘書官には、今井氏の後輩である飯田元経産事務次官。官僚トップの官房副長官には露木康浩・前警察庁長官。経産と警察という異色コンビで、財務省・外務省という霞が関の二大派閥を包囲する構図は、安倍政権の瓜二つである。

さらに財務省外しは徹底している。財務省に反発してきた片山さつき氏を財務大臣に起用し、経済財政担当には積極財政派の城内実氏。自民党税調のトップには財務省OBの宮沢洋一氏を外し、小野寺五典前政調会長を据えた。官邸・党・財務省のトライアングルを経産省主導に塗り替える布陣だ。

財務省の逆襲① 麻生を中心に巻き返し

もちろん、百戦錬磨の財務省が黙っているはずがない。
財務省が頼りにする切り札は、キングメーカーに復帰した麻生太郎元総理である。

麻生氏はかつて積極財政派だったが、安倍政権で財務大臣に就任して以降、増税路線に転じた。消費税を5%から8%、そして10%へと二度引き上げたのは、麻生氏が財務省と二人三脚で進めた成果だった。
その麻生氏がいま、党副総裁として権力を集中させ、幹事長・総務会長を麻生派で固めている。自民党は「麻生独裁体制」とも言える布陣になった。

高市官邸にも、麻生氏の“監視の目”が潜り込んでいる。総理政務秘書官に、自民党職員の橘氏が送り込まれたのだ。党職員が官邸秘書官になるのは極めて異例。麻生氏と高市氏のパイプ役、いや監視役とも見られている。
つまり財務省は、党側から高市官邸を包囲する戦略をとっているのだ。

財務省の逆襲② 維新との“官僚連携”

もうひとつの財務省の拠点が、連立パートナーの日本維新の会だ。
維新のスローガンは「身を切る改革」。減税よりも歳出削減を重視する点で、財務省と波長が合う。財務省は、減税を掲げる国民民主党との連立を阻止するため、早くから維新への接近を図っていた。

その橋渡し役を務めたのが、維新の遠藤敬国対委員長と、財務省主計局の吉野次長。吉野氏は“事務次官候補”と目されるエース官僚で、なんと国民民主・玉木雄一郎代表と同期の「財務省93年組」だ。
財務省は、この吉野氏を高市官邸の総理秘書官として送り込んだ。名目は「高市総理を支える」だが、実際には維新の遠藤氏と連携し、積極財政を封じる“監視塔”の役割を担っているという見方が強い。

結果、官邸内では、経産・警察連合 vs 維新・財務連合という奇妙な対立構造が生まれている。遠藤・吉野ラインがどこまで高市官邸の舵取りを左右するか――まさに政権の行方を占う官僚バトルである。

外務省も蚊帳の外へ

財務省に続き、外務省も冷遇されている。
高市総理は就任早々、国家安全保障局長の岡野氏(外務省出身)を電撃解任。石破政権がわずか半年前に登用したばかりだった。後任に指名されたのは、外務省出身ながら「菅派」とされる市川氏。岸田・石破両政権で次官コースから外れ、インドネシア大使への転身が内定していた。高市総理がその人事をひっくり返し、岡野氏の後任に据えたのだ。

外交・安保政策の主導権を外務省本流から切り離し、官邸直轄に置く狙いが透けて見える。

安倍政権も警察庁出身の北村氏を国家安保局長に据え、外務省を抑え込んだ前例がある。高市総理も同じ手法で「官邸主導」の体制を確立しようとしている。背後に今井尚哉氏の助言があるのは間違いないだろう。

官邸vs財務省――主導権争いの行方

こうして始まったのが、「高市官邸vs財務省」の全面戦争である。
経産省と警察庁を手足にした高市官邸に対し、財務省は麻生派と維新を後ろ盾に巻き返しを図る。舞台は霞が関と永田町の両方。主戦場は、財政政策と人事である。

安倍政権のように「人事で官僚を支配する政治」を再現できるか――それとも財務省が再び政権の中枢を取り戻すのか。
積極財政をめぐるこの人事バトルこそ、日本の経済運営と政治の将来を左右する最大の焦点だ。