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小泉進次郎「政権構想」を読み解く―加藤勝信・財務相を選対本部長に据えた意味

自民党総裁選で小泉進次郎氏が本命視されるなか、選対本部長に現職の財務大臣・加藤勝信氏を起用する方針が固まった。人事ひとつをとっても、そこには次期政権の姿が透けて見える。単なる布陣ではなく、進次郎政権の性格と方向性を示すシグナルである。

安倍家と昵懇、地味だが手堅い「使いやすい男」

加藤勝信氏は財務省出身。安倍元首相の父・安倍晋太郎氏にの最側近だった加藤六月氏の娘婿で、岡山の地盤を継承した。官僚経験を活かしつつ、官房副長官、厚労相、官房長官、財務相と歴代内閣で重用されてきた。
政治家としてのカリスマ性は乏しいが、実務能力は折り紙付き。権力者にとって「仕事は任せられるが脅威にはならない」という、最も扱いやすいタイプだ。だからこそ、安倍晋三氏の庇護がなくなった後も、重職を歩き続けることができたのだろう。

ただ、昨年の総裁選では自ら挑戦し、推薦人20人をかき集めたものの国会議員票は16票にとどまり、最下位。カリスマ性の不足を露呈した。結局今回は出馬を断念し、進次郎陣営の本部長として“調整役”に徹することとなった。

財務省の全面接近を示す布陣

最大の注目点は、加藤氏が現職の財務大臣であることだ。これは進次郎と財務省の接近を意味する。
前回の総裁選で財務省は、減税色の強い高市早苗氏や進次郎氏を敬遠し、石破茂首相に賭けた。しかし石破政権は退陣。財務省にとって「減税派・高市政権」は最悪のシナリオであり、今は進次郎に寄り添わざるを得ない。

財務省の守護神である森山裕幹事長、財務族の大物である麻生太郎元首相も、今回は菅義偉氏と歩調を合わせて進次郎支持に回った。選対本部長に財務相・加藤を据えることは、次期政権が財務省主導で進むことを示す。進次郎政権は「財政規律重視、減税は封印」という姿勢が鮮明になった。

厚労族の顔を持つ加藤と政策修正

加藤氏は厚労相を3度務めた厚労族でもある。前回総裁選で進次郎が掲げた「解雇規制の見直し」は労働界や厚労省の猛反発を招き、失速の一因となった。これに強く反対したのが加藤氏だ。今回の起用は、その公約を封印するシグナルでもある。

同じく前回の争点だった「選択的夫婦別姓」も、加藤氏は反対派。進次郎が彼を本部長に据えた以上、今回このテーマを前面に出すこともないだろう。
つまり、進次郎はあえて“角を立てない”。重鎮の支持を束ね、挙党一致・党内融和を優先する戦略が透けて見える。

旧安倍派への配慮と「裏金問題」

加藤氏起用をスクープした産経新聞は、旧安倍派との関係に注目した。安倍家との関係から旧安倍派との親交も厚い。これにより、高市氏や小林氏へ旧安倍派の支持が大量に流れるのを防ぐ狙いがある。決選投票で高市氏と対峙する際、他派の票を一気に吸収する布石でもある。
その結果、旧安倍派の裏金事件は「うやむや」になる可能性が高い。党内融和を優先すれば、徹底追及は後景に退かざるを得ない。

茂木敏充との因縁

ただし、加藤氏には因縁の相手がいる。茂木敏充前幹事長だ。
加藤氏は政界入り当初、橋本龍太郎元首相の支援を受けて平成研(旧茂木派)に所属したが、派閥会長争いで茂木氏に敗れた過去を持つ。岸田政権下で麻生氏の後押しを受けた茂木氏が幹事長に就き、派閥会長にもなったのは記憶に新しい。

加藤氏を本部長に据えることは、麻生ー茂木ラインへの牽制にもなる。ただし、進次郎陣営が麻生氏の意向を無視して選対本部長を決めるのは考えにくい。麻生氏も了解したのではないか。進次郎にとって、敵を茂木氏ひとりに絞れるなら、その方が得策だという計算も働いている。

見えてきた「進次郎政権像」

こうして浮かび上がる進次郎政権の姿は次の通りだ。

  • 財務省と完全接近し、財政規律を重視
  • 減税や夫婦別姓、解雇規制改革など対立を招く公約は封印
  • 維新との連立を軸に、立憲とは是々非々で対応。減税派の国民民主党は突き放す
  • 旧安倍派を敵に回さず、裏金問題は不問に付す可能性大
  • 解散は当面封印し、まずは「挙党一致」と「維新との連立」で政権基盤を固める