岸田文雄政権が発足して10月4日で1年。岸田首相は内閣支持率が続落する逆風下で3日召集の臨時国会に突入する。
昨秋の衆院選に続いて今夏の参院選に圧勝して3ヶ月も経っていないのに、旧統一教会問題や安倍国葬、物価高が政権を直撃し、国民からすっかり見放された感がある。
政治家は権力の座につくと長期政権を目指すもの。岸田首相も例外ではない。野党が低迷するなかで次の衆参選挙以上に関門となるのは2024年秋の自民党総裁選だ。そこで再選を果たせば、歴代最長の安倍政権に近づく長期政権が見えてくる。
しかし24年夏の時点で内閣支持率が低迷していたら、25年夏の参院選、25年秋に任期満了を迎える衆院選に向けて「岸田首相では勝てない」という危機感が自民党内に広がり、「岸田おろし」が吹き荒れ、菅義偉前首相と同じように総裁選不出馬に追い込まれてしまう。
それを回避するには、24年夏の時点で内閣支持率を回復させるか、さもなくばその前に衆院解散を断行して衆院選で勝利するしかない。
岸田首相が衆院解散のタイミングとして念頭に置くのは、来年5月に地元・広島で開催するG7サミット直後だ。安倍政権で5年近く外相を務めた岸田首相には外交への思い入れが強い。広島サミットで支持率を引き上げてそのまま衆院解散になだれ込むというシナリオである。
支持率を回復させて「安倍政権」と同じ道を進むのか、支持率が続落して「菅政権」と同じ運命をたどるのか。この秋の臨時国会は岸田政権にとって大きな岐路となる。
臨時国会で岸田首相が直面する主なテーマは以下の2つだ。
①統一教会・安倍国葬
安倍元首相が残したふたつのテーマは、引き続き岸田首相を苦しめそうだ。
自民党内に広がる「統一教会汚染」はとどまるところを知らず、世論の反発は収まりそうにない。自民党は統一教会との関係を徹底調査して膿を出し切る気がさらさらなく、岸田政権は防戦一方になりそうだ。
まずは統一教会との濃密な関係が指摘されながらも記者会見に応じず、紙切れ一枚の説明で逃れようとしている細田博之衆院議長の責任追及が大きなテーマとなる。
細田議長が居座る限り、この臨時国会は常に大きな爆弾を抱えているといえる。与野党が対決モードになるたびに細田議長問題を蒸し返される展開になれば、与党は国会の主導権をつかむことができない。
細田議長は最大派閥・清和会(安倍派)の前会長であり、強引に退任を迫ると、清和会との関係がさらにギクシャクするだろう。清和会でポスト安倍を目指す萩生田光一政調会長は安倍国葬について「各党にどこかの時点で丁寧に説明することも必要だったのではないか。結果として、国民に国葬に取り組む政府の思いが上手に伝わらなかった。そんな反省がある」と公然と批判しており、岸田首相と距離を起きつつある。
岸田首相の最大のライバルである菅義偉前首相は安倍国葬の追悼の辞で脚光を集め、安倍支持層や清和会との距離を近づけている。「清和会+菅前首相」の非主流派同盟が結成されれば、岸田政権の基盤は大きく揺らぎ、24年総裁選再選へ黄信号がともる。
岸田首相は安倍国葬について「国民からさまざまな意見や批判をいただいたことは真摯に受け止め、今後にいかしていきたい。今後の議論に資するためにも記録を残していくことは重要だ」として、幅広い有識者から意見を聴取して政府の対応を検証する考えを表明した。
これは前向きな姿勢にみえるのだが、永田町で国会対策を長年ウオッチしてきた私からすると、岸田首相が臨時国会で国葬について追及された際に「現在、有識者の方々から幅広く意見を聞いて検証作業を行っており、その結果を踏まえて今後の国葬のあり方にいかしていきたい」と言い逃れするための布石としか見えない。臨時国会が終わる段階で検証結果を公表し、あとは自然収束を待つという毎度のパターンである。
しかし、このような状況対応型の政権運営を続けていたら、岸田政権はジリ貧が続くだろう。「丁寧な説明」という言葉もすでに使い古された。国民の信頼を取り戻す大仕掛けがない限り、反転攻勢は難しい。
②物価高
岸田首相が物価高対策として打ち上げた「住民税非課税世帯への5万円給付」は不評だった。安倍政権時代の10万円給付が「全員」を対象にしたのに対し、住民税の負担を免れている一部の人々を対象にした支援策は多数派の中間層の反発を招くのは当然である。それを「物価高対策」の目玉として打ち上げるあたり、岸田政権が国民世論とのコミュニケーション力に欠けることを象徴しているといえるだろう。
岸田首相は9月30日、物価高対策の仕切り直しとして、総合経済対策の策定を関係閣僚に指示し、10月中にとりまとめて第2次補正予算に盛り込む考えを表明した。この内容は臨時国会の大きな争点となろう。
しかし、現時点で報道されたところによると、総合経済対策の目玉は「全国旅行割」と「電気代高騰の激変緩和措置」くらいのようである。
全国旅行割は「GO TO トラベル」のリニューアル版だ。利用者よりも大手旅行会社など観光業界を潤わす側面が強く、巨額の税金の使い方として再び論議を呼びそうだ。新型コロナワクチンの感染予防効果への疑問や健康被害・副作用への懸念が強まるなかで「3回接種済」の人などに利用を限ることも「非科学的」「不公平」との反発を招きそうだ。
電気代の激変緩和措置はさらに歪んだ政策である。経産省内で検討されているのは「電力会社への補助金」である。これは原油高対策としてガソリン税廃止など一般国民を直接支援するのではなく、石油元売り会社へ巨額の補助金を投入したのと同様、一般国民よりも業界対策を優先する「自民党型の利権政治」そのものだ。
この補助金の結果、石油元売り会社は相次いで過去最高益をあげた。今回、電力会社が電気代高騰のなかで利益を大幅に伸ばすと、国民の反発は高まるだろう。岸田政権は原発の新増設も推し進める構えで、「電力会社びいき」がいっそうくっきりしてきた。
岸田政権の物価高対策はどこまでも庶民ではなく財界を守る内容といっていい。
岸田政権の臨時国会に向けた対応をみていると、支持率が回復軌道に乗るとはとても思えない。現時点ではジリ貧で総裁選不出馬に追い込まれた「菅政権型」をたどる可能性が高いだろう。
岸田政権の行方について詳細な分析は、10月4日発売のサンデー毎日に『岸田首相が狼狽!「伝家の宝刀」も抜けないジリ貧シナリオ』として寄稿した。
ユーチューブでも解説動画を制作したので、ご覧ください。