自民党の安倍派や二階派の裏金議員への処分について、岸田文雄首相が自らも処分対象とする検討に入ったと毎日新聞や朝日新聞が報じた。岸田派の元会計責任者も立件されたことを踏まえ、処分対象となる安倍派幹部らの不満を抑えるために首相自身も処分を受ける必要があると判断したということらしい。
この報道が正しいとすれば、岸田首相は完敗となる。処分を受けた首相が解散総選挙を断行したり、9月の総裁選に再選を目指して出馬することは相当に厳しいからだ。9月退陣どころか、処分と同時あるいは政治資金規正法改正を花道に今国会末の6月の退陣に追い込まれる可能性さえ出てくる。
共同通信は、①安倍派と二階派の裏金議員80人を一斉処分する②派閥幹部は「党員資格停止」か「選挙での非公認」とし、最も重い「除名」や「離党勧告」は見送る③中堅若手は「党の役職停止」か「戒告」にとどめる④4月上旬にも処分するーーという案を報じている。
これに照らせば、岸田首相は岸田派会長だったわけで、「党員資格停止」か「選挙での非公認」となる。党員資格を失ったら総裁辞任は避けられず、首相も退任するほかない。自民党総裁が選挙で公認されずに出馬することはあり得ず、解散総選挙に踏み切れない。
毎日や朝日の報道は、岸田首相が総裁選前の解散総選挙を断行することを阻止したい麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長のサイドがリークしたものだろうが、岸田首相がこれを受け入れたら解散権を封印され、退陣へのカウントダウンに入るのは間違いなく、この報道は「岸田おろし」の一環とみていい。
さすがに岸田首相は自らの処分案をはねのけたようだ。
読売新聞が3月23日に報じたところによると、岸田派は不記載はあったものの、裏金づくりとはいえないとして、岸田首相は処分対象から外れる方向と報じた。岸田首相は麻生氏や茂木氏のリークで首相処分案が独り歩きすることに危機感を募らせ、巻き返したのだろう。
自民党内で世論操作を含む激しい攻防が始まったのは間違いなく、3月末の予算成立〜4月上旬に自民党としての処分に向けて、政局は一気に緊迫してきそうだ。
麻生氏や茂木氏にすれば、首相自身の処分を俎上にのせることで安倍派幹部らへの厳しい処分を避け、あえて世論の反発を受けることで内閣支持率が回復しないようにし、首相の解散権を縛る狙いもあろう。岸田首相が今国会中に解散を断行できなければ、9月の総裁選への出馬断念に追い込まれる可能性が強まる。
岸田首相が自民党内の動きを振り切って、安倍派幹部らに除名ないし離党勧告を突きつけたうえで、4月か6月の解散総選挙に踏み切れるのかどうか。衆院解散も首相退陣もありうる緊迫の展開になってきた。