自民党は公明党の主張を受け入れ、政治資金パーティーの公開基準を5万円まで引き下げる政治資金規正法の改正案を衆院で可決した。これに最後まで反対したのは、キングメーカーの麻生太郎副総裁だ。
岸田文雄首相が麻生氏の反対を振り切ったことで、昨年秋の定額減税や今年初めの派閥解消の表明で冷え込んでいたふたりの関係悪化は決定的となった。
岸田首相は、公明に近く麻生氏の天敵である菅義偉前首相とも信頼関係はなく、連携へのハードルは高い。
四面楚歌の岸田首相はもはや「ヤケクソ解散」を断行するしかないとの憶測も流れているが、内閣支持率は低迷し、自公与党も解散阻止一色で、とても踏み切れそうにない。
麻生氏が政治資金パーティーの公開基準を5万円まで引き下げることに最後まで反対した理由はいくつかある。麻生氏はもともと公明党が好きではない。地元・福岡でも公明党の推薦を得ていない。自公連立から25年、昨今の自民党議員では極めて珍しい。自公連立解消論の急先鋒といっていい。
これに対し、麻生氏の政敵である菅義偉前首相や二階俊博元幹事長、森山裕総務会長は公明党と親密だ。麻生氏は公明の影に、菅氏ら党内ライバルの気配を嗅ぎ取っている。公明党の発言力を増すことは、菅氏の影響力アップにつながり、麻生氏にとっていいことはない。
そこで今回の政治資金規正法改正をめぐる自公協議でも、岸田首相に対し、公明党の主張を受け入れる必要はないと吹き込んでいた。それを無視し、岸田首相が公明党案をほぼ丸呑みしたことで、麻生氏としては「やはり岸田は俺の言うことを聞かない」という思いを強くしただろう。
9月の総裁選にむけ、麻生氏は岸田首相を自らの元へ引き戻すため、上川陽子外相を持ち上げて牽制したが、岸田首相は「麻生離れ」を進めた。ここまで軽視されると、9月総裁選で岸田再選を打ち出すのは簡単ではない。
本来は子飼いである茂木敏充幹事長を担ぎたいところだが、茂木氏は党内外で人気がない。
世代交代を恐れて抑え込んできた麻生派の河野太郎デジタル担当相と和解する手もあるが、河野氏もマイナンバーカード問題で失速した後は世論調査で菅氏と近い石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相に引き離されている。
麻生氏が岸田首相や菅氏が担ぐ候補に対抗する総裁候補を生み出せるかどうかは見通せない。
そうしたなかで、政治資金規正法の改正をめぐり公明党の主張に反対したことは、公明党への譲歩を重ねる岸田首相に反発する自民党議員たちの支持を引き込む狙いもあろう。総裁選にむけての多数派工作として、公明党に近い菅氏らに対抗する手段として公明党案に反対するのは効果的だという判断もあったに違いない。
一方、岸田首相はそもそもどこかで公明党に譲歩するつもりであったのだろう。
自民党は参院で単独過半数を持っていない。改正案の成立には公明党の協力は不可欠だ。岸田首相が今国会中の法改正を公約した時点で、公明党案をほぼ丸呑みすることは避けられない構造になっていた。
公明党は、不人気の岸田首相による6月解散に反対だった。岸田首相が法改正後に衆院解散を強行する筋書きを描いたとしても、公明党が今国会中の法改正を阻止すれば、解散にたどり着けない。公明党は法改正を人質にとって首相の解散権を縛ることができる。
それを承知で岸田首相が今国会中の法改正を公約したということは、そもそも6月解散を本気で断行する覚悟はなかったとみていいだろう。公明党が嫌がる6月解散を見送り、公明党に大幅譲歩してでも、今国会中の法改正を実現することを優先するほかないと腹を括っていたといえる。
そのためには、公明党と不仲の麻生氏よりも、公明党と親密な菅氏や森山氏の協力を得る必要があった。麻生氏との関係がいっそう冷え込むことは織り込み済みだったに違いない。
とはいえ、菅氏との信頼関係も不十分だ。岸田首相は麻生氏も菅氏も味方につけられず、自民党内では「公明党案の丸のみ」への批判が高まるばかり。まさに四面楚歌に陥ったのである。
それを打開するには「ヤケクソ解散」しかないという憶測が自民党内にはくすぶるが、内閣支持率は低迷し、自公与党の猛反対を振り切って解散を断行する力はもはやない。仮に解散を断行すれば、大幅な議席減は避けられず、9月総裁選の再選はますます難しくなる。
岸田首相は解散権を封印したまま総裁再選の道筋を描くことになるが、麻生氏にも頼れず、菅氏とも組めず、展望はまったく開けていない。
最後の頼みの綱は、小池百合子知事が7月7日の東京都知事選に出馬して勝利し、立憲民主党の勢いを止めることだ。だが、小池知事も学歴詐称疑惑を抱え、裏金自民との一体化を追及され、守勢に回っている。土壇場で不出馬を表明するとの見方もくすぶっている。出馬しても自民党の推薦は断る可能性もある。女帝は当てにならないのが現状だ。